「日本で起こっているのが不思議」 世界に学ぶ“暴力・暴言問題”…ドイツの現場では「ありえない」

秀岳館高サッカー部の暴行疑惑で現場の課題が浮き彫りに(※写真はイメージです)【写真:Getty Images】
秀岳館高サッカー部の暴行疑惑で現場の課題が浮き彫りに(※写真はイメージです)【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】ケルンで育成年代の指導に関わるパプスト氏は日本の現状を「びっくり」

 日本のスポーツの育成現場で見られる暴力・暴言問題はなぜ起こるのだろう。他の国ではどのような状況なのだろう。

 そこでドイツの育成現場で長く活動しているクラウス・パプスト氏に話を聞いてみた。パプスト氏はドイツ1部FCケルンで各年代の指導者を務めたほか、U-8~U-14統括部長を歴任。現在はケルン市内の自クラブで子供たちの指導に励む毎日を送っている。

 日本の指導現場では指導者が子供たちに手を出す、侮辱する、恫喝するということがまだまだ起こっているという話をすると非常に驚いた反応を見せた。

「そんなことが日本で起こっているというのがとても不思議で、びっくりしている。私は日本に何度も行ってサッカークリニックや指導者講習会などを精力的に行ってきたが、本来日本はリスペクトを持って取り組む国だという認識が強いんだ。だから指導現場でそんなことが起こっているなんて」

 育成に問題を抱えるのは日本だけではない。世界中どこでも育成に関する問題はある。グラスルーツの指導者を見てみたら、ドイツでもまだまだ昔ながらの画一的なトレーニングをしたり、うまくいかないからと声を荒げる指導者はやっぱりいるのだ。

「ドイツでも試合開始から最後まで選手に怒鳴り続けている監督はいる。ある時4、5チームを招いて大会を開いたことがあったんだ。それぞれのチームの監督には怒鳴るのではなく、意味のあるコーチングをしましょうと声をかけて行った。ちょっとしたことだけど、そうした取り組みで改善のきっかけは作れるかもしれない」

 指導者には間違いなく指導者としての知識と経験が重要だし、そのための働きかけは必要になる。とはいえボランティアで関わってくれる人にそこまで多くのことを要求することはできない事情もある。

「ドイツの育成における問題として、育成指導者にしかるべき賃金が支払われていないことが挙げられる。ボランティアコーチを重要視する美徳はとても素敵だが、育成を受けた指導者もボランティアでとなるとどれだけの人がいつまでも情熱的に現場に関われるだろうか。サッカーは国民的スポーツなのに、必要なだけの指導者がいない。指導者の質を蔑ろにしてはならないんだ。正しい指導者を正しく起用することができない」

 確かに理想を口にしたらきりがないかもしれない。やれるところからやっていく地道な取り組みに活路を見出すしかない。ただ、だからといってドイツのグラスルーツの現場で暴力や暴言があるかというとそれはほとんど見聞きしない。

「ありえない」

 パプスト氏は何度もそうつぶやいた。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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