イメージNO1クラブに輝いたドルトムント 倒産寸前だったクラブを救った戦略 

劇的な変化をもたらしたマーケティング会社との契約  

 そして3つ目が、原稿のメインテーマである”ブランド戦略“である。全てのきっかけは、08年にデュッセルドルフのマーケティング会社、『XEO』との契約だった。
  前述した『エボニック』の仕事が縁で、XEOのベン・リュンガー社長がスタジアムに足を運ぶ機会を得た。元ミュージシャンの同氏は応援の迫力に衝撃を受け、すぐに観戦のとりこに。ヴァツケら幹部と懇意になり、ドルトムントのブランド戦略に携わるようになった。
  XEOの任務は、とにかくクラブのイメージアップ。まず彼らが手掛けたのは、クラブのアイデンティティーを1つのキャッチコピーに凝縮することだった。ドルトムントの象徴は8万人収容のスタジアムを埋め尽くすサポーターだ。彼らのチームへの思い、忠誠心は世界トップレベル。XEOが考え抜いた末に提案したのは、「Echte Liebe」(本物の愛情)という言葉だった。
  ヴァツケはすぐにこの言葉を気に入った。
  「Echt(本物、真実、純粋)という単語は、私たちのスタジアム、サポーター、伝統にすごく合っていると思った」   この新スローガンを基本コンセプトに、XEOは次々と斬新な演出を仕掛けていく。09年のクラブ100周年キャンペーンでは、「Danke fur 100 Jahre echte Liebe」(100年間の本物の愛情に感謝)というキャッチコピーとともに、王室を感じさせる高級感のあるロゴを作った。   そして10年1月にはスタジアムマガジンを大刷新。雑誌名を「Borussia aktuell」から「Echt」に変更し、紙質、デザイン、コンセプトを全て新しいものに。黒と黄で統一した、まるでファッション雑誌かのようなマガジンが完成した。
  元ミュージシャンという経歴を生かし、リュンガーはテーマソング制作にも取り掛かる。ドルトムントのスタジアムのゴール裏、南側スタンドは下から上まで一続きになっており、そこをサポーターが埋め尽くすさまはまるで”黄色の壁“だ。リュンガーはその圧倒的な声援にインスピレーションを得て作詞作曲をスタート。自らがマイクを握り、応援ソング「Echte Liebe」を完成させた。
  この歌をYoutubeとFacebookに投稿すると、ドルトムントのサポーターたちに爆発的に広がり、自然にスタジアムで歌われ始めた。これを受けてオフィシャル応援ソングとして販売されることに。スタジアムでの生演奏が実現し、”黄色の壁“とともに熱唱した。

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