マンチェスター・シティ敗戦の「なぜ?」 “8割ぐらいは勝てる”スタイル設計から浮かぶ「勝てない理由」
【識者コラム】レアルに屈しCL敗退、その理由を改めて検証
勝ちに不思議の勝ちあるも、負けに不思議の負けなし——プロ野球のレジェンド、野村克也氏の言葉だと思っていたが、元は江戸後期の平戸藩、松浦静山藩主だそうだ。
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UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2戦、レアル・マドリード(スペイン)の大逆転勝利はサンチャゴ・ベルナベウの魔力とこのクラブの伝統の力をみせつけた。合理的な説明が難しく、まさに「不思議の勝ち」だ。ただ、説明ができないだけでレアルは勝ち方を知っている。ノックアウトステージはずっとこうであり、ずっと前からこうなのだ。
では、負けたマンチェスター・シティ(イングランド)はどうなのか。「不思議の負けなし」ということなので、その理由を探ってみることにしよう。
「ボール支配率が70%で我々のゲームができているなら、80%の試合には勝てる」
ヨハン・クライフが、カルレス・レシャックが、そのほか、さまざまなバルセロナの人々が口にしてきた一種の教義である。シティはバルサではないが、ジョゼップ・グアルディオラ監督はバルサスタイルの信奉者であり、シティでもそれを発展させてきた。
基本的なプレーのやり方は同じ。大雑把にいうとパスをつないで押し込み、ハイプレスで奪い返し、もっぱら敵陣でプレーする。そうすると8割ぐらいは勝てるという設計のプレースタイルである。
それからすると、シティは勝てる試合になっていなかった。前半のボール支配率は56%、全体でも55%にすぎず、70%にはほど遠い。シュート数は13本で同じだが、印象としてはややレアルが優勢か五分という内容だった。
シティはいつもほどボールを持てず、敵陣でのプレスも巧みに回避されていた。レアルはボールを奪った選手が簡単にミスをしない。奪った直後は周囲のスキャンが十分に出来ていないのでシティとすれば即時奪回のチャンスなのだが、レアルはそこでボールを失わなかった。特にMFカゼミーロはボールを奪うと同時に失わない選手だった。
つまり、シティが勝てない理由はあった。圧倒的に優勢なゲームをして勝つという設計になっているのに、圧倒的優勢という前提が崩れていた。ちなみにレアルは圧倒的優勢の試合をしばしば落とす。その代わり、互角や劣勢のゲームをものにするのは得意だ。この試合ではチームの設計思想の違いが勝敗に表れていたという見方はできるかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。