レアルを優勝へ導いた名将は「ちょっと地味な普通のおじさん」 アンチェロッティ監督はビッグクラブにちょうどいい

監督は無難にやっていれば優勝…そう思わせるのがレアルの不思議さであり偉大さ

 アンチェロッティを褒めたたえるつもりで原稿を書き始めたのだが、どうにも褒め切れない(笑)。そもそもレアルの歴代監督は影が薄い。チャンピオンズカップ5連覇当時のホセ・ビジャロンガ、ルイス・カルニグリアは名の通った監督ではあったが、この時のレアルは「ディ・ステファノのチーム」である。

 ビセンテ・デルボスケ監督の時もジネディーヌ・ジダンやロナウドなど、銀河系軍団の引率者という趣。ジダン監督もスーパースターのカリスマ性はあったにしても、監督としてはデルボスケやアンチェロッティに近いだろう。監督は無難にやってさえいれば、チームは勝手に優勝する。絶対にそうではないに違いないのだが、そうとしか思えないのがレアルの不思議さであり偉大さである。

 ただ1つ言えそうなのは、このクラブは伝統的にプレーヤーズ・ファーストだということ。

 ライバルのバルセロナは監督とスター選手の軋轢が絶えない。ヨハン・クライフ監督はミカエル・ラウドルップをはじめ、たいがいの選手とたもとを分かつ結果に終わっていたし、ルイス・ファンハール監督とリバウドの確執は有名だ。プレースタイルやシステムに関して妥協のない監督とスター選手は相性が悪いのだ。

 レアルにも活躍できなかったスターはたくさんいるが、スター同士のポジション争いで弾き出されたり、自身のコンディション低下や負傷が主な原因で、システムに合わないとか監督の構想外となった例はあまり記憶にない。そもそもそんなに強固なシステムもないのだが、スターの活用において障害の少ないクラブではある。

 ちょっと地味めで、仕事はできそうだが何をしているのかよく分からない、そういう監督がちょうどいいのかもしれない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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