プロへ“最短”と“大学経由”…薄まってきた東京Vの特異性 選手の技術レベルに大きな違いはない

課題に直面している東京V【写真:Getty Images】
課題に直面している東京V【写真:Getty Images】

【識者コラム】生え抜き選手と大卒選手が対照的だった東京Vと熊本

 久しぶりに東京ヴェルディが好調な滑り出しを見せた。J2で開幕から8戦して5勝3分けと無敗で2位。昨年は永井秀樹監督のパワハラ問題が発覚し体制が変わるなど激震があったが、今年は生え抜きの有望株がすべてチームに残った。昨年終盤の戦いぶりを見ても、メンバーが揃えば上位戦線に加わるポテンシャルが感じられていたので、ある程度予想どおりとも言えた。

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 もともとトップチームの低迷を考えれば、東京Vの育成力は際立っていた。ただしせっかく育てた選手たちの力をチームに還元させる術を見出せず、育成から経験を積ませて外へ出すまでのサイクルが早すぎた。結局個人昇格ばかりが目立ち、チーム強化が進まないジレンマに陥っていた。

 その点で4月9日に行われた9節、ホームでのロアッソ熊本戦は興味深い試合だった。スタメン平均はどちらも25歳代なのだが、その中身が対照的。東京Vは過半数の6人がホームグローン(地元育ち=生え抜き)なのに対し、熊本では同クラブのユースから明治大学を経て戻って来た坂本旦基ただ1人。熊本は大卒が9人を占め、そのうち7人はプロのキャリアが3年以内だった。

 当然両者のキャリアの相違を考えれば、東京Vが技術で、大学で鍛えられてきた熊本がフィジカル面で優位性を見せる展開を予想した。ところが開始10分を過ぎた頃から、相手陣に入って主導権を握り始めたのは熊本だった。狭い局面でのつなぎも自信に満ちていて、やや強度に欠ける東京Vの圧力を落ち着いてかわしては逆サイドに展開し仕掛けていく。むしろ往年の読売クラブのように、トリッキーな技に凝りすぎて好機を逃すシーンが目に付くのも熊本の方だった。

 結局東京Vが少ないチャンスを活かして先制するが、前半の内に追い付いた熊本が後半に入ると逆転。東京Vも佐藤凌我が同点弾を決めたものの、熊本は途中交代で入った伊東俊と大卒ルーキーの東山達稀の連係で再び突き放すスリリングな展開となり、今年東京Vには初めて黒星が付いた。

 もちろん熊本は大木武監督が就任して3年目に入り、密集スペースでの攻守の連係に自信を深め、この日はさらに個の効果的な突破も味付けできていた。東京Vで途中出場して2点目を決めた佐藤は、ベンチから「好きに持たれて押し込まれていた」と感じており、逆に熊本の1点目を決めた阿部海斗は「今日みたいなサッカーができれば、どんな相手ともやれる」と語っていたので、熊本にとっては会心のゲームだったようだ。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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