「現時点では荒削り」 スーパールーキー松木玖生への期待と“フィジカル頼み”の課題

今後の成長次第でパリ五輪代表のメンバー争いにも食い込めるか

 前半の終わりから後半の途中にかけて、FC東京が優勢だった後半27分に松木は退いたが、結局FWレアンドロ・ダミアンの一撃で川崎が勝利した。局面で非凡な才能を発揮した松木だが、川崎が左のDF登里亨平、FWマルシーニョ、チャナティップが絡んできたところで、前を向かれてボールを持たれたところからの守備になるシーンが目立った。

 どうしてもレアンドロが中よりのポジションを取る影響もあり、ところどころギャップやスペースが生まれてしまうのは仕方がない。そのなかで上記のようなボールロスト後のカウンターを除き、失点につながる問題が生じなかったのはポジティブだが、守備に関してはポジショニングより運動量とデュエルを押し出している面が強い。

 攻撃面もアルベル監督のスタイルを前進させるうえで、周りを引き出すプレーをしていきながら、タイミングよく決定機に顔を出すという判断は今後、磨きをかけて行く必要があるだろう。高卒ルーキーのデビュー戦としては上々だが、現時点では荒削りな印象だ。ただ、チーム自体もアルベル監督の元で船出をしたばかりだ。

 パリ五輪世代のボランチはMF松岡大起(清水エスパルス)をはじめ、MF藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、MF田中聡(湘南ベルマーレ)、MF川﨑颯太(京都サンガF.C.)、MF山本理仁(東京ヴェルティ)などアンダーカテゴリーの代表を経験してきているタレントが揃う最激戦区だ。さらに、松木と同じ2003年生まれのMF中井卓大がスペイン1部レアル・マドリーと2025年までの契約を更新したという情報もある。

 それでも今後の成長次第で、パリ五輪を目指す代表チームの主力争いにも割り込んでいけるはず。また松木には来年予定されるU-20ワールドカップもある。そこで中心的な役割を担って五輪、A代表とステップアップして行く道筋は作りやすい。

 ここから局面の強さや技術だけでなく状況判断、ボールを動かす中でのポジショニング、周囲に対する影響力など、試合の経験を重ねるなかでどんどん伸ばして行けるかどうか。いずれにしても主力のコンディションなどチーム事情もあるなかで、若手の育成に定評のあるアルベル監督が開幕スタメンに抜擢したというのは少々のことで評価を下げず、使いながら伸ばすという明確なメッセージが込められているように思う。

 キャンプでしっかりとアピールし、開幕戦で荒削りながらも自分の強みを前面に押し出して存在感を示した松木。ここからFC東京の戦術的な向上とともに、どういう成長曲線を描いて行くのか、厳しくも前向きに見守っていきたい。その意味でも1日でも早くチームが正常化して、少しでも良い状態で再開後の公式戦に臨める状況になることを心より願っている。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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