見えてこないアギーレ監督の思い描くサッカー 必要なのは戦術を伝える「通訳」

W杯の苦い経験を経て課題を修正しているブラジル

 コンパクトという言葉に代表されるように現代サッカーでは距離感とポジショニングが非常に大事だ。ワールドカップで悪夢の準決勝ドイツ戦での1-7惨敗を受けて、新たに就任したドゥンガ監督は守備面での規律を徹底するところからチーム作りを行っている。その成果がこのバランスの取れたポジショニングに表れている。それをベースにネイマールやオスカルの個のクリエイティビティが発揮できているわけだ。一方、日本はブラジル代表と比べてみると全体的に高いポジシンでバランス悪くボールに触れているのが分かる。

 ワールドカップの分析を通して、結果が出るチームは前半と後半のデータが良い意味で変わる傾向があった。ドイツ代表、オランダ代表、アルゼンチン代表、チリ代表、スイス代表、アメリカ代表……。名将と呼ばれる監督が指揮するチームで特にその傾向が出ていた。

 2人の名将が火花を散らしたこの試合で悪かった部分を改善できたのはどちらのチームだったのだろうか? 言うまでもなく後半になって3得点を積み上げたブラジルだった。

 後半のシュート数はブラジル9本対日本3本、流れの中からのクロスはブラジル4本対日本9本、Dualsはブラジルの28勝19敗だった。

 クロスのみ日本の数値が高いがこれはしっかりと質を見る必要がある。ブラジルのカカのクロスによるネイマールの得点、ネイマールのクロスをきっかけにした攻撃で最後はネイマール自身が押し込んだ得点に見られるようにブラジルのクロスは明らかにラストパスの意味合いを持つが、日本のクロスはサイドから中央に「放り込む」ロングボールが多かった。さらにブラジルはセカンドボールの奪い合い、シュート機会の増加が後半になって大幅に改善出来ていたことになる。

 試合を通して見ると、注目してみたいデータは守備のデータだった。

japanBrazilPositionDF

 ボールを奪いに行くアクションのデータであるタックルはちょうど五分だったが、組織的な守備の結果成功する確率が高まるインターセプトの数がブラジルは日本の倍以上だった。

 また危険を回避するというプレーのクリアもブラジルが大きく上回った。4-0という得点差でポゼッション率が60%対40%と大きく差があっても、それぞれのチームに必ずチャンスもピンチもある。王者ブラジルであっても全力で守り、徹底的に相手の攻撃の芽をつぶすというのがこのデータの意味だ。

 良いタックルがあり、次のプレーでボールゲインが可能になる。インターセプトが実行される。そしてインターセプトの後のプレーは間違いなくカウンターアタックだ。この日の失点、ピンチは全てブラジルの組織的な良い守備から始まっていた。

 一方、日本はアギーレ監督が発する「守備の意識」を個人の激しいプレーという解釈で止まってしまっているように思える。オートマティズムのない個人の守備であるために奪った後の連動性も乏しい。

 アギーレジャパンが誕生してすでに4試合が終わり1勝3敗という成績だ。当面の目標であるアジアカップまで残された時間はそれほど多くはない。2018年のロシアワールドカップ出場に向けたアジア予選も始まる。

 日本サッカー協会は4年後を見据え、アギーレ監督に日本の未来を託した。指揮官が思い描くサッカーが今の日本に必要だと判断したからだ。だが、その戦術を選手たちが理解し、体現できなければ、絵に描いた餅になってしまう。

 アギーレ監督が求めるサッカーの戦術を、選手たちが表面上の言葉ではなく、本当の意味で理解し、組織として成熟していくために、その真の狙いをどのようにチームに伝え、浸透させていくかが今後、重要になってくるに違いない。

analyzed by ZONE Analyzing Team

データ提供元: opta

【了】

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

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