心の炎を燃やせ――マンUに根付く理屈抜きの美風 「らしさ」だけでは勝てない

伝説的な監督の言葉に象徴される“ユナイテッドのらしさ”

 ユナイテッドらしさとは、伝説的なマット・バスビー監督の言葉に象徴されている。

 Just go out, and PLAY

 対戦相手のスタンレー・マシューズをどう抑えるか答えが見つからないなか、ハーフタイムのロッカールームでそう言ったと伝えられている。「とにかく行って、プレーしてこい」では何の解決にもなっていない気もするが、第二次大戦をくぐり抜けてきた当時の選手たちには響く言葉だったようだ。

 理屈抜き。闘志と才能と団結力で自分たちのすべてを出せ。心の炎を燃やせ、というのはユナイテッドというクラブの美風になった。「ミュンヘンの悲劇」を乗り越えた復活劇で奇跡のチームとなったのも決定的だった。ユナイテッドは特別なクラブになっていった。

 ただ、ユナイテッドの「らしさ」に具体性は特にない。シティらしさ、リバプールらしさにある裏づけがない。それは具体的なアクションや戦術などより、たぶんずっと尊くて美しいものだと思うけれども、それだけで勝てる状況ではなくなってしまったのだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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