F・トーレスを再生させた情熱の指揮官シメオネ “たった一言”の真実とは

シメオネにあったトーレス再生の確信

 地元ファンの絶大な人気に加え、世界的な知名度を誇るトーレスの獲得は、クラブとしてはマーケティング面などプレー以外の部分でも効果が期待できる。だが現場の最高責任者であるシメオネにとってはピッチ上のパフォーマンスが全てだ。その彼が誰よりも獲得にこだわったのは、トーレスを再生し、かつ有効な戦力として活用できる確信があったのだろう。

 シメオネは選手のパフォーマンスを最大限に引き出すスペシャリストだ。ジエゴ・コスタ、アルダ・トゥラン、コケ、フアンフラン…、彼の指揮下で個人として大きく成長した選手を挙げたらきりがない。

 その手法は至ってシンプルだ。選手に暗示をかけるかのごとく、直接信頼していることを繰り返し伝えることで自信を植え付ける。例えばコスタに対しては、ラダメル・ファルカオが移籍した後に「お前がゴールを決めるんだ」と言い続けたことがアトレチコでの得点力爆発につながった。そして今、彼はトーレスに対しても同じ手法で、しかしコスタへのそれとは異なるメッセージを送っている。

 プロとは思えぬほどシュート技術が低いのに、大舞台になればなるほどものすごいゴールを決めてみせる。そんな規格外のストライカーであるトーレスは、基本的に勢いとインスピレーションに任せてプレーするタイプだ。そのため、少しでも体のキレが落ちたり、精神的に迷いがあったりすると全く活躍できなくなる。非常にデリケートで好不調の波が大きい選手でもある。

 そんな彼の加入以降、シメオネは一昨年末より調子を上げてきたグリーズマンを前線の主軸とし、トーレスとマリオ・マンジュキッチのいずれかをその相方役に起用している。

 ともにフィジカルの強さという共通点はあるものの、スピードと機動力で上回るカウンター型のトーレスに対し、マンジュキッチはポストプレーや、エリア内で高さを発揮する、より相手を押し込んだ状態で生きる遅攻向きのセンターフォワードだ。シメオネは異なる特長を持つこの2人を対戦相手のタイプや試合状況によって使い分けている。つまり彼は12-13シーズンのファルカオ、13-14シーズンのコスタの後釜となるチームの得点源としてトーレスを獲得したのではなく、あくまでも攻撃のバリエーションを増やす一戦力として迎え入れたのである。

 

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