緻密な戦略でスペインを翻弄 番狂わせを「奇跡」と呼ばせなかった日本の躍進

ファーサイドから飛び込んできた大津祐樹【写真:Getty Images】
ファーサイドから飛び込んできた大津祐樹【写真:Getty Images】

チーム内で語られていた日本が歩んだ「失敗の歴史」

 ボール支配を譲りながら、ゲームの流れを掴んでいたのは日本だった。スペインは最終ラインにミスが目立ち、右SBモントージャのバックパスが流れて、センターバック(CB)のドミンゲスが辛うじて追いつきGKデ・ヘアへ戻すと、それを狙った清武弘嗣がシュート。直後にはジョルディ・アルバが、清武への荒いファウルで警告。さらに同41分には、最後尾でパスを受けたイニゴ・マルティネスのトラップが落ち着かず、快足を飛ばした永井が奪い取ると、ゴールへ向かおうとする永井をマルティネスがファウルで止めて一発退場となった。

 日本のシナリオが快調に進み、スペインの焦燥が広がっていく。10人で後半を迎えたスペインは、アンカーのハビ・マルティネスを最終ラインに落とし、コケが両CBの間に降りてビルドアップをスタート。マタやイスコが引き継ぐ形で展開していくが、山口蛍らの果敢なインターセプトなどからカウンターを浴びることになる。日本は後半10分からは4分間で3度の決定機を連続して演出。永井が2度、清武が1度フィニッシュにかかるタッチやシュートをミスして逸機した。また同41分には永井がCBのドミンゲスから奪取し置き去りにするがGKデ・ヘアに阻まれ、同45分には東のラストパスを受けた山口が目の前の無人のゴールにプッシュするだけの絶好機で枠を外してしまった。

 過去3度の開幕戦で優勝候補を倒した日本は、明らかに番狂わせを演じた。しかしロンドン五輪でのスペイン戦は、十分に3、4点差で勝ち切るだけのチャンスを積み上げていた。また過去3度、歴史に刻まれる奇跡を演じたチームは、次の試合を落としている。それに対しロンドン大会の日本は、グループDを首位通過し44年ぶりにベスト4へ進んだ。チーム内では、ドリームチームと呼ばれたブラジルを倒しながらグループリーグで敗退した1996年アトランタ大会のケースが、教訓として語られたという。

 優勝候補打倒に全精力を注ぎ込み、大き過ぎる達成感から次戦で集中し切れなかったダークホースとしての失敗の歴史から学び、必然の前進を遂げた大会だった。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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