中島翔哉が触れば“何かが起こる” 唯一無二の才能も…日本代表にとっては「諸刃の剣」

“替えのきかない才能”は諸刃の剣でもある

 攻撃時にラモスはトップ下の位置へ出て行く。守備に切り替わった時は吉田と森保が2ボランチとして機能し、右は長谷川が引いてくる。左はラモスが戻れない場合は、V川崎の僚友カズがカバーした。基本は4-3-3だが4-2-3-1、4-4-2に柔軟に形を変化させることに、すでにチームは慣れていた。

 日本はイラク戦の前半5分に先制した後、相手の猛攻に耐える展開へ傾いていく。ラモスは前残りすることが多くなった。オフトの戦術からすれば完全な逸脱だ。ラモスの「自由」をカバーすることに慣れていたチームだったが、この時は連戦の疲労とイラクの勢いに押されてバランスを整える余裕を失っている。この時のラモスは37歳、もともと運動量抜群だったがさすがに攻守を同じウエートではプレーできず、形勢を立て直そうと前残りしていた。それが組織崩壊の引き金になっていた。

 ただ、イラクに同点とされたあとの後半24分、ラモスのパスから中山のゴールで2-1とリードしている。前残りしていたラモスが、ワンチャンスを生かした。イラクの選手が負傷で1人倒れたまま、パニックになったDFがオフサイドトラップをかける瞬間を狙い、しかもレフェリーが日本寄りということも感知して、中山がオフサイドになるまで待ってパスしている。このまま逃げ切っていれば、ラモスの危険な賭けは吉と出て“ドーハの奇跡”だった。

 替えのきかない才能は諸刃の剣でもある。イラク戦はどちらの面もあった典型的な試合として記憶されている。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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