松田直樹が残したもの

 

今の日本サッカーに足りないもの


松田には何度か物議を醸した過去がある。
 熱くなり過ぎて退場したり、チームメイトと喧嘩したり。トルシエ体制だった1999年秋のオリンピック代表合宿では試合に出られない不満を監督にぶつけて、合宿先のソウルから帰国した。2005年春にはジーコジャパンのW杯予選バーレーン戦でベンチメンバーから漏れて、そのまま無断帰宅している。
 当然、それらは許される行為ではない。だが反面で、松田が内に秘めた熱がチームに大きな力をもたらしたことも多々あった。世界への扉をこじ開けてきた世代の中心選手として、その影響力はあまりにも大きく、個性は際立ち、だからこそ多くの人を魅了した。
 たとえば今、そんな松田がブラジルワールドカップに挑んだ日本代表を見たら、どう感じるだろうか。人一倍、日本が負けることを嫌っていた男は、1分け2敗でグループリーグ敗退という成績に落胆するだろう。だがそれ以上に、それぞれの個性を発揮しきれずに敗れ去ったことに憤りを見せるに違いない。
 生前、松田はブラジル大会に向かう後輩たちを見て嬉しそうに語っていた。
「本田のような個性って超うれしいよね。中田みたいでさ。この間、岡崎のインタビュー見てたら、あいつらW杯優勝を狙ってるって言ってて、うわ、一緒にいたかったなあって思った。俺の努力、なんじゃこりゃ、チンカスだなって」
 あれから3年半。しかし、結果は松田が期待していたものにはほど遠かった。
 本番が近づくにつれて輝きや勢いを失っていった日本の選手たち。いざ大会を迎えてもどこか淡々と敗れ去っていった印象を残した。確かに日本人の技術はレベルアップし、世界的なビッグクラブでプレーする選手も出るようになったが、それらの才能を本番で発揮できるような精神的な強さやタフさに欠けていた。
 松田の国際Aマッチの記録は40試合1得点。今や多くの選手がそのキャップ数を上回っている。だが、松田ほどインパクトを残した選手はそう多くはない。
 松田が全身にまとった負けず嫌いのオーラや誰にでも挑みかかるような熱、「俺みたいなディフェンス像は俺しかいない」と言い切る個性や強さ。それらは、今の日本サッカーに最も足りないものかもしれない。
【了】

 

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

 

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