日韓W杯関係者が明かすFIFAブラッター会長の素顔 「トップに立つような人間ではなかった」

人の名前を覚える特殊能力があった

 今年5月にアメリカ合衆国の司法省が、FIFA(国際サッカー連盟)のジェフリー・ウェブ副会長ら14人を、贈収賄やマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で起訴したことで大きく動きだした巨大汚職事件。10月8日にはFIFA倫理委員会が、ゼップ・ブラッター会長とミシェル・プラティニ副会長、ジェローム・バルク事務局長を暫定的に90日間の資格停止処分にすると発表した。

 さらに19日には、2011年にプラティニ副会長が、ブラッター会長から契約書なしに200万スイスフラン(約2億5000万円)もの報酬を受け取っていたことが判明。いまだ終息の兆しを見せていない一連の汚職疑惑だが、その中心にいるブラッター会長とはどのような人物なのか。

 2002年ワールドカップ招致委員会でFIFAとの交渉も務めた、スポーツビジネスの第一人者である広瀬一郎氏に聞いた。

◇    ◇    ◇

――広瀬さんは2002年のワールドカップ(W杯)招致委員会の業務を通じて、事務局長時代のブラッター氏とも仕事をされました。渦中の会長はどんな人物なのでしょうか?

「スイス生まれのブラッターさんは、1975年にFIFA会長だったジョアン・アベランジェさんに誘われ、事務局入りしています。目立っていたのはドイツ語のほか、フランス語、英語、スペイン語、イタリア語の5ヶ国語を流ちょうに操る言語力。そして、人の名前を覚えるという特殊能力です。とにかく一度会った人の名前をすぐに覚えてしまう。再会した時には、名前で呼び掛けてくれるわけです。『あのFIFAの会長が、名前を覚えていた!』というだけで、たいていの人はブラッターファンになってしまいます。

 ただ、事務局長時代も含め、アベランジェ会長に仕えていた時の印象は文字通りの名番頭。有能なマネジャーで、集団のバランスを取っていく調整能力に優れた人でした。どちらかと言えば、果断に決断を下すタイプではなく、トップに立つような人間ではなかったと思います」

――それが5選するほどまでになったのはどうしてなのでしょう?

「74年に会長となったアベランジェさんは、24年間かけて今回の汚職問題につながる利権構造を作り上げました。そんなアベランジェ帝国で既得権益を持っていた一部の層が、『この権益を引き継いでくれる人間は誰か?』と考えた時、適任者はブラッターさんしかいなかった。いわば、周囲に説得され、会長に選ばれたのでしょう」

――では、今回の汚職事件に関与していない可能性も?

「捜査を待たなければなんとも言えませんが、名番頭が金の流れを知らないわけはありません。そして、ブラッターさんも再選を繰り返すうち、その構造の中に入っていったのは確実でしょう。ただ、いずれにしろ、FIFAの幹部たちは『サッカーで金もうけをして何が悪い?』と思っていたはずです。彼らに罪悪感はなく、世間の常識とかけ離れた世界にいるだけです。

 牧歌的な時代は、お礼の寸志の額も1万円、10万円程度でしたが、放映権料の高騰などによってサッカーが巨大なビジネスとなり、行き交う額が1000万、1億となっていったのだと思います」

 

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