冷静沈着、威厳、頭脳明晰さ… 長谷部誠が刺激するドイツ人の“リベロ愛”と郷愁

カイザー(皇帝)と称されたベッケンバウアー。名リベロとして西ドイツ代表の一時代を築いた【写真:Getty Images】
カイザー(皇帝)と称されたベッケンバウアー。名リベロとして西ドイツ代表の一時代を築いた【写真:Getty Images】

“危うさ”も内包するリベロ 戦術的に不要だが…依然として魅力的

 2006年W杯でユルゲン・クリンスマン監督の参謀だったヨアヒム・レーブが、現在のドイツ代表監督でもあり、もちろんもうリベロは使っていない。

 ブンデスリーガでも長谷部を含め、かつてのようなリベロは存在しない。ただ、長谷部のプレーぶりは、かつてドイツの栄光を支えてきたリベロを彷彿とさせる。それが高評価につながっていて、ドイツのサッカーファンが抱く郷愁に似た感情を刺激しているのではないかと思うわけだ。

 冷静沈着、威厳、頭脳明晰さ……そして危うさ。長谷部はボールを奪った直後にヒールキックで敵をいなし、ペナルティーエリア内で悠然とドリブルし、大きく蹴り出したくなる状況でもパニックにならずノールックパスをつなぐ。安全第一とはかけ離れたプレーをしている。けれども信頼は揺るがない。ぎりぎりの状況を余裕綽々で切り抜けられるのは、もともとMFだったことと関係がある。ベッケンバウアー、トーン、ザマーなどもそうだった。ピンチに動じず、顔色一つ変えず、華麗に切り抜けていた。

 ACミランのゾーンディフェンスが世界を席巻していた頃、あるベテラン記者がこう言っていた。「私はリベロのほうが好きだ。オフサイドで試合がぶつ切りになるよりも、リベロの知的なカバーリングと攻撃へ転化する洗練された技術を見られるからだ」と。

 現在では、戦術的にリベロは不要なのかもしれない。だが、依然として魅力的ではある。


(西部謙司 / Kenji Nishibe)


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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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