元銀行員からの転身 今季ナポリ指揮官に就任したセリエA注目の戦術家

異色のキャリア

 今季セリエAは、8月末に幕を開ける。カルチョの国には、個性豊かな名物監督や、会長が存在する。そして今、イタリアで最も注目されていると言っても過言ではない監督が、今季からナポリの指揮を執るマウリツィオ・サッリ監督だ。そう言われても、この名前にピンとくる人はそういないだろう。何しろ、元サッカー選手でもなければ、セリエAで戦ったのも、エンポリを率いた昨季だけだからだ。
 現在56歳のサッリは、異色の経歴を持つ。大学で経済を学ぶと銀行へと就職。90年代前半から仕事の傍らでアマチュアリーグレベルのサッカー指導者としてキャリアをスタートする と、2000年にはついに勤めていた銀行に辞表を提出。本格的な指導者の道へと人生の大転換を図った。サッカー選手でなくとも、体育教師から転身して出世を果たした存在にはスペシャル・ワンことチェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督などがいるが、サラリーマン上がりというのは相当に珍しい。
 サッリは、そのキャリアの中で、徹底的に弱者が強者を打ち負かすための方策を練り続けてきた。アリゴ・サッキのプレッシングサッカーを原点とするサッリのスタイルは、高く設定されたDFラインでのハイプレス戦術。緻密な計算と理論に裏打ちされたサッカー哲学に、経験という要素を加えながら戦いの舞台をセリエD、C2、C1、Bとステップアップさせてきた。その原動力となったのが、セットプレーの多彩 さ。その内容は実に30パターンを超えるといわれる。
 昨シーズン、エンポリは15位で残留を果たした。特筆すべきは、リーグ一の低予算クラブで、その偉業を成し遂げたことだ。エンポリの昨季予算は1100万ユーロ(約15億円)ほどと言われ、1億ユーロを超える予算を計上したユベントスなどと同じカテゴリーで戦うことに無理を感じるほどだ。それでも、高度に組織化されたチームは個人能力の差を戦術で埋め、全38試合中18試合を引き分けで乗り切った。王者ユベントスにこそ2敗したが、ミランを相手に2引き分け、ナポリに対しては1勝1分の成績を残した。ビッグクラブを相手にしても、簡単に勝利をプレゼントしないだけのチームに成長させた。

 

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