【データ分析】柴崎の「仕掛けるパス」が生んだ戦術的柔軟性 日本の勝利の方程式は「ザック+ハリル」

「ザックの遺産+ハリルの遺産」が日本の勝利の方程式か

 ロシアW杯はまだ始まったばかりだが、大会全体を見るとはっきりとした傾向がある。それはポゼッションスタイルのチームで、突出したスーパースターが機能していないことだ。

 アイスランド戦で78%のポゼッション率、クロアチア戦で58%のポゼッション率を誇ったリオネル・メッシ擁するアルゼンチン。スイス戦で55%のポゼッション率だったネイマールを擁するブラジル。ブラジルは第2戦のコスタリカ戦で試合終了間際の2得点でようやく勝利したが、いずれもグループリーグから苦戦を強いられている。

 一方、ここまで初戦のスペイン代表戦でのハットトリックを含む4得点とクリスティアーノ・ロナウドが絶好調のポルトガルは、ポゼッション率がスペイン戦34%、モロッコ戦45%と相手にボールを保持されながらもカウンターで鮮やかに勝利を手にしている。ハビエル・エルナンデス擁するメキシコも、ドイツ相手に34%というポゼッション率ながら見事なカウンターアタックで前回王者から大金星を挙げている。

[DATA-3]ロシアW杯出場4カ国の第1戦と第2戦のポゼッション率の変化【データ提供:Instat】
[DATA-3]ロシアW杯出場4カ国の第1戦と第2戦のポゼッション率の変化【データ提供:Instat】

 一方で、一人の突出した「スーパースター」の存在がなくても、ここまで順調に勝ち点を伸ばしているフランス、クロアチア、ホスト国のロシア、ベルギーといった無敗のチームを見ると、ある特徴があることに気が付く。これらのチームは対戦した2試合のポゼッション率の差が10%以上も異なる傾向があった(DATA-3参照)。

 では、日本はどうだろう。コロンビア戦は試合開始早々に相手選手が退場するハプニングもあり、58%というポゼッション率で勝ちきることができた。高いポゼッション率で相手にボールを奪われないスタイルは、2014年W杯ですでに日本が実践できていたものだが、相手の最終ラインの間を割る、相手の裏を突くという攻撃の部分に大きな課題を残していた。それが良くも悪くも当時のアルベルト・ザッケローニ監督が率いるチームの姿だった。

 その課題を克服すべく日本が選んだのがハビエル・アギーレ監督であり、その退任後、2015年3月から引き継いだのがバヒド・ハリルホジッチ監督だ。いずれの指揮官も球際の強さや縦の推進力を強調し、日本代表が足りなかった部分をしっかり理解し、植え付ける作業を試みた。2010年、2014年のW杯アジア予選においては圧倒的なポゼッション率で出場権を勝ち取ってきた日本代表だったが、今回のアジア予選においては対戦国のポゼッション率が上回る試合もあった。W杯出場を決めたオーストラリア戦は、まさにハリルジャパンの集大成のような試合で、ポゼッション率は38%だった。

「コミュニケーション不足」を理由にハリルホジッチ監督が4月に電撃解任された後、現在チームを率いる西野朗監督は日本らしさ、すなわちボールを失わないスタイルをベースに、縦への速さであったりデュエルの要素など「ハリルの遺産」を活用することを明言した。そうした双方のスタイルを使い分ける戦術的な柔軟性は、相手が一人少なかったとはいえ、W杯初戦のコロンビア戦で垣間見ることができた。

 グループリーグ残り2試合の結果が、どんなものになるのかは分からない。しかし忘れてはいけないのは、サッカーのスタイルというものは指揮官の就任からわずか2カ月で確立できるものではないということだ。現在の西野ジャパンがピッチ上で体現しているものは、ザッケローニ元監督の下で築き上げてきたものと、ハリルホジッチ前監督によって強化されてきた部分を、日本人同士だからこそ可能な高いレベルのコミュニケーションと危機感によってなんとか形にしたものである。

 このW杯に向けて突貫工事で仕上げた「オールジャパンの力」を見極めることは、今大会の結果がいかなるものになろうとも、日本サッカー界に課せられた重大なテーマとなるのは間違いないだろう。

analyzed by ZONE Analyzing Team

データ提供元:Instat



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