川崎で撮った”黄金期の残像” 万能なブラジル人FWの存在…等々力で見た「可能性の片鱗」

岡山との激戦を制した川崎フロンターレ【写真:徳原隆元】
岡山との激戦を制した川崎フロンターレ【写真:徳原隆元】

岡山に2-1で勝利した試合をカメラマンが振り返る

 微雨が音もなく降るなか行われた、J1リーグ第12節・川崎フロンターレ対ファジアーノ岡山戦。静かにスタジアムを濡らす雨とは裏腹に、ピッチ上では激しい攻防が繰り広げられた試合は、2-1で川崎の勝利に終わった。

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 そんなタフな内容となった試合で目に留まった場面があった。それは試合前、ウォーミングアップをする岡山の選手たちの輪にあって、オベルダンが主導となり立田悠悟と連携やボールの受け渡しについて話し合っていた場面だ。

 なるほど、オベルダンは中盤の選手ながら、試合ではGKのマイボールから始まる攻撃の際には、最終ラインまで下がってボールを貰い受け攻撃の起点になるなど、攻守の要として岡山を牽引していた。チームの中心的存在であろうとする姿勢は、ピッチ上のプレーだけでなく、試合前のチームメイトとの会話からも表れていた。

 オベルダンはブラジル人特有の派手なテクニックで観衆を沸かせることは少ないが、前線へと確実にボールを運ぶ安定したドリブル突破と、インサイドキックを多用した正確なパスでチームにリズムをもたらし、さらに0-2の劣勢から反転攻勢の機運を高めるゴールも記録した。

 岡山はこのオベルダンを攻守の要とし、前線から最終ラインの全選手がハードマークで相手を抑え込むプランで勝利を目指していく。しかし、ホームチームもまったく負けていなかった。岡山の激しいマークに屈することなく、力強いプレーで対抗し、 “川崎らしさ”を見せる。

 立役者となったのは最前線で1トップを務めたデリキ・ラセルダ。デリキ・ラセルダはフィジカルやテクニックの面で圧倒的なセールスポイントとなるものはないが、その動きはよどみがなく、実にしなやかだ。空中戦にも強さを発揮し、足元のプレーもしっかりとしている。

 この万能型のブラジル人FWが前線にいることで、川崎のゴールを目指す手段は多彩となった。攻撃を形成するマルシーニョや伊藤達哉もドリブルで攻め上がる得意のプレーをピッチに描きながらも、デリキ・ラセルダという信頼できる1トップがいることで、ここぞの場面では球離れが良くパスを選択し、得点を狙いに行くだけでなくチャンスメーカーとしての役割も果たしていく。

 川崎は攻撃の流れの局面で、選手たちがチームプレーと個人技のどちらを選択すればより最善になるのかという思いが合致していた。そのためゴールを目指すまでのボール運びに、無駄な動きがこれまでよりも減ったように見えた。当然、無駄な動きが減ればゴールを急襲するスピードは上がり、ゴールゲットの確率も高まることになる。

 また、助っ人CBを中心とした最終ラインも、DFとしての第一の役割となる守備が安定したことにより、攻撃に転じてからのパスワークに、素早さと正確性が増したように感じられた。足元から足元へのパス交換での崩しだけでなく、これまでも見られていたが、後方から前線に向けて放つ相手守備陣の裏を突くロングボールも正確性が増し、キック・アンド・ラッシュ戦法もより威力を発揮するようになっている。

 この川崎の多彩な攻撃をカメラのファインダー越しに見ていて思い出したのが、2017年のJ1リーグ初優勝から始まった、5年間に及ぶ川崎の黄金時代だ。

 加速する情報化社会によって相手の研究が容易になった戦術重視の現代サッカーでは、もはやピッチ全体でひとりの選手がボールを持つ時間やスペースは限られてきている。Jリーグを華やかなものにした、川崎がタイトルを手中に収めていたころのパスサッカーを、近年でそのまま再現するのは極めて難しいのが現状だ。

 そこで現代サッカーで勝ち抜くための世界的な潮流となっているのが、手数と時間をかけず一気呵成に相手ゴールへと迫るスタイルだ。そのため上記したように、川崎もかつての華麗なパス交換で圧倒的にボールをキープし、相手ゴールを攻略するというスタイルを武器とはしていない。

 しかし、現代サッカーの定石となった果断速攻へと変化しつつも、随所に個人技と必要に応じたパス交換がちりばめられた川崎のダイナミックな攻撃は、スリリングで迫力があった。この攻撃は黄金期のこれでもかと相手ゴールを激しく攻め立てる、エネルギーに満ちたプレーを想起させた。

 ただ、課題も露呈している。後半30分の失点に端を発する劣勢がそれである。失点に怖気付いたのか、ルカオとレオ・ガウショのパワーファイターを起点に、神谷優太や白井康介にドリブルでゴールへと迫られ、チャンスと見ればミドルシュートで得点を狙ってきた、岡山の一気に畳みかけてくるサッカーに押し込まれる場面が続いた。

 それでも川崎はなんとか1失点で抑え勝利した。

 かつての川崎は確固たる信念に基づいたパスサッカーで得点を狙い、そこから幾度となく劇的な結果を生み出してきた。そうした観客の心を熱く沸かすエンターテイメント性が高いサッカーは、等々力劇場と称されることになる。

 川崎の試合運びは決して完璧だったとは言えない。しかし、後半途中まで見せていたダイナミックなサッカーは、スタイルこそ現代にマッチしたものへと変化した部分があるが、ゴール裏から見ていて、かつての川崎の怒涛の攻撃を思い起こさせるエネルギッシュな輝きを放っていた。

 この対岡山戦は、いまの川崎がかつてJ1王者として君臨していた高みへと、再び到達できる可能性の片鱗を見せた試合となった。

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