序盤戦に旋風を起こす“下剋上組” 5部アルバイト→J1の苦労人が席巻…リーグ盛り上げるサプライズ

下部から這い上がった下剋上組に注目【写真:徳原隆元&増田美咲】
下部から這い上がった下剋上組に注目【写真:徳原隆元&増田美咲】

得点ランキングの上位に位置する注目すべき選手たち

 8月7日に開幕した2026-27シーズンのJ1リーグは、10月25日までに12試合が終了。約3分の1を消化したことになる。

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 最新の順位表を見ると、北中米ワールドカップ(W杯)日本代表FW小川航基らを補強したタレント軍団・FC町田ゼルビアが勝ち点27で首位をキープ。松橋力蔵監督2年目でチーム成熟度が上がっているFC東京も同勝ち点で2位につけている。カタールW杯日本代表FW浅野拓磨らを加えて戦力充実のサンフレッチェ広島も1ポイント差の26で3位。その下にいる柏レイソル、ヴィッセル神戸を含めて、開幕前から前評判が高かったチームが上位を占めている状況だ。

 誤算があるとすれば、目下、8位に沈んでいる2025年王者・鹿島アントラーズだろう。2026年J1百年構想リーグでもEAST首位でフィニッシュし、18試合で総失点9という堅守を誇ったが、今季は早くも21失点という苦境に陥っているのだ。

 AFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)との掛け持ちによる疲弊、日本代表守護神・早川友基の不調、植田直通に依存するセンターバック(CB)陣の駒不足、濃野公人(D.C.ユナイテッド)の移籍、安西幸輝の負傷によるサイドバック(SB)の手薄感など要因を挙げれば複数あるだろう。だが、昨季王者がこのままズルズル行くとリーグが盛り上がらなくなる。名将・鬼木達監督による劇的な立て直しに期待したいところだ。

 上位陣の構図はこのような感じだが、得点ランキングに目を向けると、驚くべき事実が一つ見えてくる。瀬川祐輔(柏レイソル)、長倉幹樹(FC東京)、谷村海那(横浜F・マリノス)、渡邉新太(水戸ホーリーホック)という下部リーグから這い上がってきた“下剋上組”が、上位10人の中に堂々と名を連ねているのだ。

 まず、ここまで8ゴールで3位タイにつける瀬川が明治大学卒業後の2016年に最初に加入したのは、当時J2のザスパクサツ群馬(現ザスパ群馬)だった。服部浩紀監督の下、松下裕樹氏(現前橋育英高校監督)、山岸祐也(名古屋グランパス)らとともにプロ1年目から主力として活躍。同年に13ゴールを挙げ、1年でJ1だった大宮アルディージャ(現RB大宮アルディージャ)に引き抜かれた過去を持つ。

 大宮で1年過ごした後は柏へステップアップ。だが、柏が2019年にJ2での戦いを余儀なくされたことから、彼は再び2部リーグで自己研鑽を図ることになったのだ。結局、柏はマイケル・オルンガ(アル・アラビ)や江坂任(ファジアーノ岡山)、マテウス・サヴィオ(浦和レッズ)らの活躍もあって1年でJ1に復帰。瀬川も2021年まで4シーズンを戦うことになった。

 その後、湘南ベルマーレ、川崎フロンターレを経て、2025年6月に柏に復帰。リカルド・ロドリゲス監督には最前線やシャドーの一角で起用され、最初からスムーズに適応。今季のブレイクにつなげている。今季はジョーカー起用がメインで、「途中から出て勝負を決めるフィニッシャー」という位置づけだが、本人もそれを前向きに受け入れて取り組んでいる様子。「自信と余裕がいい流れになっている」と本人も手応えを口にする。

 今の柏はリカルドチルドレンの小泉佳穂や今夏加入の遠藤渓太が重要な得点源になっているが、瀬川が決め切ってくれているからこそ、4位という好位置をキープできている。ここからも彼にかかる部分は大きいだろう。

 続いて7得点で5位の長倉は2022年、関東サッカーリーグ1部(5部相当)・東京ユナイテッドからキャリアをスタートさせた苦労人。当時はアルバイトをしながら生計を立てていたという。

 その彼を恩師・大槻毅監督(現岡山コーチ)が引っ張る形で当時J2の群馬へ。ようやく正式なプロ選手となり、一気に存在感を高めていく。そして2023年には当時J1のアルビレックス新潟へ。わずか1年半で5カテゴリー昇格という異例の道を歩み、24年にはYBCルヴァンカップ得点王に輝いた。残念ながら名古屋グランパスとの決勝戦ではPKを外し号泣することになったが、傑出した得点感覚が高く評価される形になった。

 そして25年にはユース時代を過ごした浦和レッズへ。「東京ユナイテッドに入った頃、浦和のことは現実的な目標とは考えられなかった。いつかプレーしたいとは考えていましたけど、本当に戻れたのは運がいいですね」と本人もうれしそうに話したが、その浦和ではほとんど活躍できないまま、同年5月に新潟時代の恩師・松橋監督の率いるFC東京にレンタルで赴くことになった。

 その東京ではリンクマン的な器用さ、フィニッシャーとしての能力の高さをうまく引き出してもらう形になり、今季のゴール量産につなげている。稲村隼翔、本間至恩、高宇洋ら新潟時代の仲間に加え、佐藤恵允や安斎颯馬といった年下のメンバーも多く、自分の要望を伝えやすいのだろう。

「松橋監督には信頼してもらえているし、自分の良さも引き出してもらっている」と本人が話すように、今の環境が最適なのかもしれない。この好循環を逃さず、さらなる高みを目指してほしいところだ。

 6ゴールで6位タイにつける谷村も下部カテゴリーから成り上がってきた選手。2020年に加入した当時JFLのいわきFCが在籍5シーズンでJ3、J2と昇格したのに伴い、彼自身も着実に力をつけ、2025年7月にJ1残留争いに苦しんでいた名門・横浜FMに引き抜かれた形だ。

 同シーズンは半年間で6ゴールにとどまったが、百年構想リーグでは10点と2桁得点を記録。今季開幕後もペースを落とさずに数字を積み重ねた結果、9月・10月シリーズの日本代表活動に初招集されるに至った。

「代表は本当に細かいパスがうまいんで、『そこに出すんだ』というシーンがいっぱいあった。自分もそういうイメージでプレーしないといけないと思って、チームに戻ってからは練習で取り組んでいました。

 マリノスだと代表ほどそれが何回もできるわけじゃないけど、いつもと違ったゴールのイメージをいろいろ増やして、クオリティーを上げていけば、もっと量産できると思う。そういうのを多くしていきたいですね」と本人は前向きにコメントしていた。2025-26シーズンにオランダ1部得点王に輝いた上田綺世から得た刺激は、想像をはるかに超えるものがあったに違いない。

「海那は代表に行って得たものがすごく多いと思うので、それをどんどんチームに投げてほしい」とキャプテン・喜田拓也も期待を寄せている谷村。本気で代表に定着しようと思うなら、もっともっと数字を積み重ねていく必要がある。序盤の勢いをさらに加速させることが、谷村に託されたタスクだ。

 最後は5得点で9位タイにつける渡邉。彼もまた2018年に加入した新潟、2021年に赴いた大分トリニータ、2025年に移籍した水戸とJ2で長くキャリアを過ごした叩き上げ。2024年末には大分から契約満了を通告され、一時は現役続行の危機に瀕したこともあった。

 そんな男が水戸の2025年J2制覇、J1昇格請負人となったのだから、サッカー選手はどうなるか分からない。水戸はもともと「日本には秘めた才能を持つ優れた選手がたくさんいる」という考え方を持つクラブで、渡邉のようなキャリアを送ってきた人間でも「十分に活躍できる」と確信して、彼を加入させたという。その期待に大きく応えたうえで、迎えた今季。渡邉は序盤だけで5ゴールをマークしている。

 10月以降、負傷離脱しているのは残念で、チームもそのダメージを大きく受けている。9月2日に行われた鹿島との茨城ダービーでの4発は歴史に残る大活躍にほかならず、直近のFC東京戦で0-6の大敗を喫した樹森大介監督も彼の早期復帰を待ちわびているに違いない。

 ここから中盤戦に差し掛かるが、今回紹介したような“下剋上組”がさらに存在感を発揮してくれれば、リーグ全体が盛り上がる。より多くのサプライズを楽しみに待ちたいものだ。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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