不遇の時を過ごす遠藤航「できることを」 契約最終年で今冬売却か…それでも名門に必要な理由

リバプールの遠藤航【写真:徳原隆元】
リバプールの遠藤航【写真:徳原隆元】

今季開幕から出場機会を得られない遠藤航

 運命とは、時として残酷なものだ。リバプールの遠藤航が、昨季の試合中に左足の甲(靭帯)に重傷を負ったのは、8か月ほど前。右SBで先発し、万能性も含めて守備力を発揮していたピッチ上での不運だった。当人は、復帰の照準を今夏のW杯に絞り、キャリア初の手術に踏み切る。だが結果的には、キャプテンマークも付ける日本代表ボランチとして、優勝を目指すはずだった大舞台には間に合わず。大会を目前に、チーム離脱と代表引退という辛い決断を強いられた。

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 続いて遠藤は、2026-27シーズンが契約最終年となる、クラブでの復活に向けて全力を注ぐ。アンドニ・イラオラへの監督交代が、追い風になるのではないかとも考えらえた。しかし現実は、出場機会のないまま、今季開幕から2か月が過ぎている。個人としても返り咲きを意識していたはずのCLは、リーグフェーズの登録メンバー外。国内でも、去る10月17日のプレミアリーグ第7節ブレントフォード戦(2-1)がそうであったように、ピッチ上で汗が光る姿は、ベンチ組の1人として試合終了後に走り込む際に限られてしまっている。

 ブレントフォード戦では、故障明けに2ボランチの一角で先発したドミニク・ソボスライが、前半32分に再び怪我で続行不可能となった。前節マンチェスター・シティ戦(0-3)で、アレクシス・マック・アリスターとコンビを組んだライアン・フラーフェンベルフは、同節での退場処分で出場停止。ピッチサイドでは、遠藤が丁度ウォームアップを行なっていたのだが、ベンチから送り出されたMFは、33歳の守備的MFよりも14歳若い、アカデミー産のトレイ・ナイオニだった。

 イラオラは、若手を使って育てることに積極的な監督だ。ナイオニは、ピッチを去ったソボスライと同様、6番ではなく8番タイプのMFでもある。とはいえ、本職のボランチを投入することで、マック・アリスター本来の攻撃力を活かすという対応策もあったと感じられた。開幕からリーグ戦無敗の4位で第7節を迎えていたブレントフォードに対し、9位で敵地に乗り込んでいたリバプールには、中盤における守備的なクオリティ不足が指摘されてもいたのだ。

 実際、リバプールは攻められやすいチームのままだった。攻守が入れ替わると、「個」の力で守れるとは言い難いマック・アリスター、あるいはナイオニの左右に、大きなスペースが空いていた。中盤以前からのプレスが甘く、敵のゴールキックから楔を入れられる場面もあった。逆転勝利という試合結果は、ブレントフォードが、前半アディショナルタイムに退場者を出したことに助けられた。

 数的優位を得る前の前半44分に奪われた先制点は、守備的な本能を持つMFがいれば防げない失点ではなかった。ペナルティエリアの相手ボールホールダーと正対したマック・アリスターは、最後まで距離を詰めようとはせず、狙いを定めた浮き玉を放りこまれた。エリア外の中央から、落下地点に走り込んでネットを揺らしたのは、相手左SBのキーン・ルイス=ポッター。ナイオニは、ちらっと目視はしたものの、フリーランからのヘディングシュートを許している。ベンチの遠藤は、この失点シーンをどのような心境で眺めていたのか。

チェルシー大勝劇に見たベテラン&守備強度が高いMFの必要性

 筆者は、前週の記者席でも、目の前のピッチ上にはいないリバプールのベテラン和製ボランチに思いを馳せていた。やはり守備が問題視され、第5節ではブレントフォードに完敗(0-3)していたチェルシーが、イラオラの前任地でもあるボーンマスから大勝(5-1)を収めた、第6節での一戦だ。

 スポットライトを浴びたのは、チェルシーで移籍後初得点(2ゴール)を決めたMFジョーダン・ヘンダーソン。36歳の元リバプール主将は、ピッチ上でのリーダーシップでも勝利に貢献していた。前半、背後のCBが不必要なロングパスに失敗すると、振り向いて「慌てることはない」と諭すような仕草をし、後半に1点を返された直後には、周囲に集中力の喚起を促すべく発破をかけるなどしていた。

 そして、そのヘンダーソンに攻撃参加を可能にしていた、モイセス・カイセドの存在。約1か月半ぶりに怪我から復帰した24歳は、中盤中央の相棒が決めた見事な2ゴールに絡んでいる。先制のミドルに至った攻撃は、カイセドによる自陣内での迅速なつなぎで始まった。チーム4点目となった直接FKは、カイセドがインターセプトで起点となったカウンターの産物だ。ボールを素早く前につけるプレーや、最善のボール奪取方法と言えるインターセプトは、遠藤の持ち味でもある。

 チェルシーのカイセドには、五分五分の競り合いでファウルを取られる場面も見られた。倒れた相手選手は、ラフなプレーだと主審に訴えてもいた。昨季までのリバプールは、地元の「リバプール・エコー」紙による選手寸評に、よく「エンドウらしくやっていた」という遠藤評があったものだ。ベンチを出るや否やのファウルを示唆する、ブラックユーモア的な寸評である場合も多かったのだが、積極果敢にバトルを仕掛ける守備面の強度も敵の抑制には必要な要素であり、現在のリバプールには欠けている要素でもある。

 指揮官は、長引いた怪我による出遅れと激しいチーム内競争を、遠藤に出番が訪れていない理由としている。当人も、開幕2週間前に行われたモナコとの親善試合で後半にプレーしたあと、「コンディションはまだまだですけど、45分間やれたことが大きい」と言ってはいた。しかしながら、いまだに公式戦で起用されていない状況は、「不遇」と評しても過言ではない。

 遠藤自身のスタンスは、「ポジションはどこでもいい。求められた所で、リバプールのために自分にできることをやる」と言っていた、プレシーズン当時から変わっていない。遠藤とは、そういう選手であり、そういう男だ。9月15日、イングランドのメディアでも先発起用が予想されていながら、まさかのベンチ止まりに終わったトッテナムとのリーグカップ3回戦(3-1)でも、試合が終わると真っ先にベンチからピッチへと足を進め、チームメイトたちを称え、労をねぎらっていた。

 だがクラブは、少しでも移籍金が得られる最後のチャンスである今冬の移籍市場で、遠藤の売却に動くとしか思えない。本人にとっても、新天地での現役キャリア最終章リスタートは悪くはないだろう。移籍先の選択肢を増やすうえでも、左足の怪我は癒えている今季前半戦で出場時間が欲しいところだ。ベンチに座り続けるのはもったいない実力と経験を持ち、何よりリバプールの守備力を改善するために使われるべき戦力。それが、遠藤なのだから。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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