ユース昇格失敗→名門進学「名前だけ知っている」 継承した背番号…挑む最後の冬「誰よりも思いは強い」

帝京高3年生DF坂口碧一「本当に帝京に縁をつないでもらえた」
10月12日、プリンスリーグ関東1部第15節・帝京vs桐生第一の一戦。2-0で勝利を収めた帝京の選手たちは、試合後、グラウンドに座って大きな円を作っていた。
【注目】海外挑戦するには10代が最適 本場のサッカー&英語を学べる「帝京ロンドン学園」の魅力
スタッフが加わることなく、選手たちだけで長い時間、言葉を交わし続けていた。その光景が非常に印象的だった。
「去年の選手権予選で何を感じたかを、実際に試合に出ていた人たちに教えてもらいながら、自分たちはどう戦っていくべきかを話し合っていました」
そう語ったのは、帝京の背番号20を背負う3年生DF坂口碧一だ。186センチの長身を誇り、両足から繰り出す正確なキックとビルドアップ能力に優れた大型CB。もともとは左利きだったが、小学生時代に右足を徹底的に磨いたことで、今では右足の方がスムーズにボールを蹴れるという。一方で、トラップやドリブル、キックのコントロールは左足の方が得意という、「実質的な両利き」という興味深い特徴を持っている。
彼がレギュラーの座を掴んだのは3年生になってから。1、2年生の時はスタンドからトップチームの試合を見ていた。それだけに選手権予選のピッチに立つことは未知数の方が多く、経験者の言葉は重かった。
「帝京は全国的に見ても技術があるチームだと思うんです。でも、勝ちきれないとか、最後のところで足を振れないとか、そういうところでプリンス(リーグ)でも勝ち星を落としてきた。だから技術だけじゃなくて、勢いも必要になるという話をしました。(FW渡辺)莉太(横浜FC内定)も『戦うところが必要になる』と言っていましたし、僕もスタンドから見ていて、これまでないような多くの観客や応援の中でのプレーは相当メンタル的な強さが必要だと感じました」
その戦いはもう幕を開けている。ついに始まった坂口にとっての高校最後の選手権。高校入学時は選手権に対してそこまでの思いはなかったという。大宮アルディージャU15時代はユース昇格しか考えていなかった。
当時、長身ストライカーとしてポストプレーや両足のシュートを得意としていたが、パワーや個人での打開力が足りず、ユース昇格を果たすことができなかった。進路をどうするか考えなければいけなくなった時、帝京から練習参加の打診があった。
「その時は選手権に出たいという思いはなかったし、帝京も名前だけ知っているという感じでした。ユースに上がりたい一心だったので、上がれない時のことは考えていなかった。でも、現実的にユースの道がなくなった時に、本当に帝京に縁をつないでもらえたという形でした」
何の事前知識もないまま練習に参加をしてみると、想像以上に技術レベルが高く、サッカーも環境も整備されていた。
「しっかりとビルドアップをするし、連係から崩すなど、本当にレベルが高くて、個人的にも足もとの技術にはちょっと自信があったので、僕のスタイル的にも合うと思って決めました」
高校に入学するとまだ伸び続けている身長と両足のキック、パスセンスを買われてCBにコンバートされた。帝京のCBといえば、ただ守るのではなく、ショートパス、縦パス、対角のキックや一発で相手ライン裏を狙うスルーパスなど、多彩なキックとボールコントロール力を求められる。坂口の持つ能力はまさにそこに合致していた。
だが、コンバートしてすぐに出番を得られるほど甘い環境ではなかった。1年生の時には3年生に左利きで187センチあるCB田所莉旺(高知ユナイテッド)、昨年はCB高橋遼(立正大)と大きな壁が存在したが、「2人のプレーを見てCBの基礎的な動きや対応を学んだ」と成長するための学びと自己研鑽を続けた。
そして3年生になると田所、高橋が背負った「守備のエースナンバー」である20番を託され、帝京の最終ラインを支えながら、攻撃のスイッチを入れる存在へと成長した。
その過程のなかで大きくなったのが、選手権への思いだった。昨年の東京都予選準決勝。帝京は堀越に敗れ、全国への道を断たれた。坂口は味の素フィールド西が丘のスタンドから、その光景を目に焼き付けていた。
「勢いという面で堀越の方が僕らを上回っていたと感じました。会場の雰囲気もほかの大会とは全然違って、盛大な応援もあるなかで、いつものプレーを発揮するのは難しいと思いました」
上手いだけでは勝てない。技術で相手を上回っていても、球際の攻防やゴール前で身体を張る姿勢、エリア内で足を振り抜く強い意志と言った勝利への執念で後手を踏めば、結果はついてこない。
だからこそ、桐生第一戦後の円陣には意味があった。自分たちの武器である技術を信じながら、それだけに頼らない。昨年の悔しさを知る選手たちの言葉に耳を傾け、選手権という特別な舞台で勝つために必要なものを共有する。それは、名門の看板を背負う彼らが、自分たちの足りないものと向き合う時間でもあった。
「選手権のためにやってきた。僕はまだ出場したことがないので、誰よりもその思いは強いです」
かつて選手権に対して特別な思いを抱いていなかった少年が、今では誰よりもその舞台に立つことを渇望している。帝京は10月18日の東京都予選初戦で目白研心高を5-1で下し、2年ぶりの全国出場へ向けて一歩を踏み出した。
目指すのは、ただ全国に戻ることではない。前回出場時の初戦敗退を乗り越え、全国の舞台で勝ち進む強いカナリア軍団を取り戻すことだ。受け継いだ20番への誇りと、3年間で膨らませてきた選手権への思い。そのすべてを胸に、坂口は最後の冬に挑もうとしている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。























