“女性実況”挑戦で「8割、9割は批判だろうなと」 局離れ→飛び込んだサッカー界へ…届けたい「心の余韻」

平山未夢が語るキャリアの経緯と実況観
2024年9月にJリーグ公式映像初の女性実況者としてデビューし、今年フリーに転じた平山未夢(みゆ)。国際大会の実況を前に、「女性初」という看板をどう受け止めているのか。批判を覚悟して入った世界で受け取った声、局を離れる決断をした理由、そして舞台芸術になぞらえて語る独自の実況観まで。90分の先に残したいものを聞いた。(取材・文=林遼平/全2回の2回目)
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国際大会の実況では「日本で2人目」、Jリーグ公式映像では「初」。女性実況者として、平山にはいくつも肩書きがつく。それを本人は、迷わず「ラッキー」と受け止めている。
背景には、生涯アナウンサーというイメージが自分の中になかったことが挙げられる。将来のキャリアをイメージした時に、たまたまこの世界に出会ったからだ。
「女性初といっても、あらゆるものはもうやり尽くされたと思っていました。ニュースを読めない時代があって、バラエティもスポーツリポーターも切り拓かれてきていた。その中で、実況という分野はブルーオーシャンだった。『最初の』と言っていただけることはなかなかないので、率直にラッキーです」
ただ、看板には色がつくもの。今はその色からの脱却にも向き合っているという。それでもサッカー実況を続けるのは、恩義があるからだ。局の中も大変だったし、Jリーグ側もきっと大変だったはずだと平山は振り返る。その舞台にたどり着かせてもらった以上、サッカーを踏み台にしたとは思いたくない。だから「細く長くでも貢献できたらいい」と話す。
実況を始める前、平山は「女性実況」への反応を厳しいものと予想していた。
「最初は、8割、9割は批判だろうなと思って入ったんです。私も聞いていて違和感があるだろうなと思っていましたし、上司にも『別に私じゃなくていいんじゃないですか』という話をしたくらいです。ところが、思いのほか嬉しい声が多かったんです。もちろん、女性実況がどうだという声は一定数あります。それはいいんですよ、まだ違和感がある人もいるはずなので。ただ、女性だからより言われているんだろうなとは思います。だからこそ、絶対に選手を間違えないようにしようと思っていますし、小さなミスでも目立ちやすいだろうから、そこは気をつけています」
女性が実況を務めることについて、平山はどちらでもいいと考えている。やりたい人がいればやればいいし、使う側の媒体がいいと思うなら続ければいい。そのうえで「仲間が増えるのは純粋に嬉しい」と笑顔を見せる。
実況を始める決め手になったのは、東京五輪のサッカー中継だった。海外の英語実況を担当していたのは女性。それを聞いて、海外ではスタンダードなものが、日本だけ違和感を持たれることが、平山は気になった。
「日本だけというのは、慣れの問題だなと思ったんです」
始めてからは、一気にのめり込んだ。常に新しい領域に踏み出していたいタイプで、集中力は自分でも「エネルギー値がバグってる」と表現する。実況が決まってからは、起きてから眠るまで実況の音声を流し続け、寝ている間も覚えられないかと、つけっぱなしにしていたこともあったという。
2022年に入社したSBC信越放送で4年あまりを過ごし、今年フリーに転じた。そんな平山が局を出た理由は、1年後の自分がイメージできてしまったからだ。
「局でサッカー実況と向き合うなかで、1年後の自分が想像できたんです。1年後も、きっと同じようにスタジアムで実況している自分が絵で想像できてしまった。局ではやることがある程度決まっているので、次を模索することはできたと思うんですけど、サッカー実況のインパクトを上回るものが、局の中でできる気がしなかったんです。実況をやるとなった時に、地元で一番読まれている信濃毎日新聞に載るのは分かっていたんですけど、朝起きたら1面でした。局の中で達成できる大きなものとして、これ以上のものを探すイメージが湧かなくて。1年後の自分にワクワクしなくなったら、もう動き時だなと思っていました」
フリーになって3、4か月。局の後ろ盾がなくなり、自分が出したものがそのまま評価される。仕事をくれる方や、聞いてくれる方のために、やるべきことをしっかりやる。それが今の平山の立ち位置だ。
では、そのやるべきこととは何か。実況に何を込めているのか。平山は、サッカーを舞台芸術になぞらえて語り出した。
「私は、サッカーを舞台芸術として捉えているんです。ピッチが舞台で、出演者はサッカー選手。自分はオーケストラの指揮者くらいの感覚で、DAZNなどで見てくださっている方は、客席に座っているお客さん。舞台って席から離れられないので、つまらない舞台でも面白い舞台でも、お客さんの心に残ることを役者はやるんですよね。私もそれをやりたい。実況でもインタビューでも、何か引っかかる言葉を残したいんです。サッカー歴は短いので、サッカーの経験に基づいた言葉選びはできないけれど、引きつける言葉選びは自分にもできる。目立ちたいわけではなくて、試合を見終わったあとの心の余韻に貢献できるのが、今の自分には言葉なんだと思います」
最後に、この試合を見る人に伝えたいことを聞いた。
「固定観念を捨てて、目の前の90分を一緒に楽しみたいです。私が初めて女子サッカーを見たのはWEリーグでしたが、また違う競技だなと思いました。女子サッカーという競技として捉えると、この選手はめちゃくちゃスピードがあるとか、その中での特徴が見えてくる。ゴールが入った時に選手たちがわっと沸き立つ感じ、素顔とのギャップもあります。目の前の11人対11人を純粋に楽しんでもらうのが、自分にできることかなと。そのために、選手たちが魅力的に映るような言葉を選びたいですし、競技が魅力的に映るように届けたい。この年代の面白さでも、女子サッカーの面白さでも、特定の選手でもいいので、推しポイントを見出してもらえるものになればと思っています」
22日、リトルなでしこ(U-17女子日本代表)はグループリーグ第2戦に臨む。平山が画面の向こうの「客席」に向けて、どんな言葉を選ぶのか。選手たちの戦いとともに、その実況にも注目したい。
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)

林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。























