W杯で注目の“新ルール”は「商業ではない」 細切れを危惧も…最も恐れる「サッカーはつまらない」

北中米W杯では新ルールが導入された
世界最高峰の舞台であるFIFAワールドカップ(W杯)は、常に最先端のフットボールトレンドと、新たなルール改革の実験場となる。今回の大会でも、3分間のハイドレーションブレイク(飲水タイム)の導入や、アクチュアル・プレーイング・タイム(実際のプレー時間)を厳格に伸ばすための細かな時間制限など、これまでにない大規模な変革が試みられている。鹿島アントラーズのフットボールアドバイザーで、技術委員会強化部会副会長を務める鈴木満氏に、今回の“新ルール”について聞いた。(取材・文=森雅史/全5回の2回目)
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鹿島アントラーズの強化責任者として、四半世紀以上にわたりクラブのフットボール部門を率いた鈴木満氏。日本サッカー協会の技術委員会強化部副部会長やJリーグのフットボール委員会委員を歴任し、日本サッカー全体の発展を見据えて提言を続けている。常に世界のフットボールトレンドや競技規則の変遷に目を光らせ、現場のインテンシティ(強度)をいかに高めるかという議論の中心に立ち続けてきた。これらの改革は、ピッチ上の戦いや商業的な側面にどのような影響を及ぼしているのか。
「私たちの議論の中でも、『飲水タイムを取るとクオーター制になる傾向がある。やはりサッカーは前後半でやるべきだ。本来のサッカーのスタイルというのはそうあるべきだ』というような意見もすごく多く出ました」
一部で囁かれているような「CMを入れやすくするための改革ではないか」という批判に対し、鈴木氏は現場の過酷な現実に基づいた「必然的な処置」であると反論する。特に近年の異常気象とも言える酷暑の中では、選手の安全を守ることが何よりも優先されるべきだからである。
「商業的なことのために飲水タイムが導入されたのではないのです。この暑さでは選手の負荷を考えると、必然的に飲水タイムを入れないと無理なんですよ。クラブを通じて選手の意見、意向を吸い上げたときも、飲水タイムを導入する方向でやるべきだということでした。アメリカはこれからさらに暑くなるでしょうし」
一方で、ルールを厳格に運用するがゆえに、実際の現場でのギャップが生じることもある。たとえば、Jリーグでこれまで運用されてきた1分間の飲水タイムは、実際にはそれ以上の時間がかかっており、ルールと現実に乖離が生じていた。
「Jリーグは今、一応1分が基準なのですが、でも1分では終わらないんですよ。実際は水を飲むのにそれ以上かかっている。ところが見てる人から『1分のはずだろう』と、審判に『笛を吹け』という声があがってきます。ですから私たちは現実的にかかっているぐらいの適性な時間にしたほうがいいという要望を出しています」
また、スローインの5秒制限や、負傷時にピッチ外へ出たあとの1分間入場制限など、アクチュアル・プレーイング・タイムを向上させるための試みも議論を呼んでいる。これらは、観客や視聴者を退屈させる「悪質な時間稼ぎ」を排除するための、極めて現代的なアプローチであると言える。
「観客や、テレビ、配信での観戦で見ている人が『サッカーはつまらない』となるのは怖いことです。時間稼ぎで勝っていたらダラダラ時間をかけて交代して、負けていたら走って出てくるのを見て、『同じようにやれよ』と思われるのは事実。イングランドのプレミアリーグでは、ルール以外にいろいろな『こうやろう。これは止めよう』という申し合わせ事項があるんです。そこを見習って、今Jリーグもそういうことを考えていこうという議論をしています」
伝統的なフットボールの美学を愛する者からは、細かなルールでゲームが細切れになることを危惧する声も根強い。しかし、鈴木氏はこれらの改革を単なる制約ではなく、ゲームの魅力を最大化するための「前進」として肯定的に捉えている。
「痛いふりをして倒れている姿を観客は見に来ているわけじゃないんです。だから私は細かい時間が決まったのは悪いことではないと思いますね。スローインはボールがラインを割って5秒以内に投げなければいけないのではなくて、投げられるのに投げなかったら『5秒カウントします』っていうルールです。サッカーをより面白くしようと思ったら、必要な改革をトライしてみようということなんです。競技性でマイナスにならないようなルールにしようというネガティブな方向ではないですよ」
ルール変更にただ戸惑うのではなく、いかにゲームをスピーディーかつインテンシティの高い「作品」へと昇華させられるか。ワールドカップが提示した新たな基準は、世界中のリーグの在り方を根本から変えていく可能性を秘めている。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。













