王国の死角は「スピードの低下」 ブラジル記者が明かす名将の戦術…一抹の不安は「負荷がかかりすぎる」

王国の現状をブラジル記者が語る【写真:ロイター】
王国の現状をブラジル記者が語る【写真:ロイター】

ブラジルの現地記者がインタビューに応じた

 日本代表は現地時間6月29日、アメリカ・テキサス州のヒューストン・スタジアムで、FIFA北中米ワールドカップ決勝トーナメント1回戦・ブラジル戦を迎える。2勝1分けでグループCを首位通過したブラジルのここまでの戦いや現状をどう見ているのか。ブラジル最大級のインターネット企業「UOL」のコラムニスト兼記者であるペドロ・ロペス氏に聞いた。(取材・文=林遼平/全2回の1回目)

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 モロッコ、スコットランド、ハイチと同組となったブラジルは、グループ開幕戦となったモロッコ戦こそ1-1の引き分けスタートとなったが、続くハイチ戦、スコットランド戦では2試合連続の完封勝利。特にスコットランド戦ではヴィニシウス・ジュニオールが2得点を挙げ、マテウス・クーニャも加えた3-0の快勝で、グループCを勝ち点7で首位通過した。

 ロペス氏は「モロッコ戦で不安定なスタートを切り、誰もが警戒を強めた」と語りながらも、ここまでのパフォーマンスを高く評価。ブラジルのチーム状況が上向きになっていると分析している。

「(カルロ・)アンチェロッティ監督はモロッコ戦後、大会が進むにつれてチームは進化、向上し、後半のステージ(決勝トーナメント)で最高のパフォーマンスに達するだろうと語っていました。ここまでは彼の言う通りで、ブラジルは試合ごとに進化し、良くなっている。スコットランド戦でも良いパフォーマンスを見せました。ミッションはグループ1位で通過することであり、それは達成されました。ブラジルには勝ち進むための個々の能力が揃っており、もしチームとして集団的な向上が続けば、次の数試合ではさらに強い姿を見せるでしょう」

 試合を重ねるごとに進化を遂げるアンチェロッティ監督のブラジル。そのスタイルは、かつてのセレソンのイメージとは大きく異なるものだ。ロペス氏は現在のブラジルの強みをこう表現する。

「ブラジルは守備が堅固で、前線にはスピードと技術のある選手が揃い、ヴィニシウス・ジュニオールがまさに絶好調であるため、トランジション(攻守の切り替え)が極めて強力です。これは、美しくプレーしてボールを保持することを楽しむという、古典的なブラジルのイメージではありません。素早く攻撃し、冷徹で、効率的なチームです」

 ロナウジーニョやロナウド、カカといった名手たちが織りなす華麗なフットボールで世界を魅了してきた“サッカー王国”は、いま別の顔を持つチームへと変貌を遂げた。守備ブロックを素早く組み直し、ボールを奪えばヴィニシウスを軸に鋭く縦へ仕掛ける。その冷徹さこそが、現代のブラジルの強さの源泉だ。

 一方、ロペス氏は攻撃陣にこそ強力な選手が揃うものの、中盤には一抹の不安があることを明かした。

「課題に直面しているのはミッドフィールドです。カゼミロは何年もの間、ワールドクラスのミッドフィールダーですが、かなりスピードが落ちており、特にアンチェロッティ監督の速いシステムでは時折負荷がかかりすぎるため、ミッドフィールドのアンカーとして苦戦することがあります」

 強力な攻撃陣を下支えするはずのアンカーに生じた綻び。それが決勝トーナメントでどう影響するかは、蓋を開けてみなければわからないだろう。

 2025年5月、ブラジルは史上初めて外国人監督を招聘するという異例の決断を下した。白羽の矢が立ったのは、レアル・マドリードを率いてUEFAチャンピオンズリーグを3度制した名将、アンチェロッティ監督だった。2022年のカタール大会後にチチ監督が退任して以降、ブラジルは3人の監督が短期間で交代するという混乱を経ており、アンチェロッティ監督はその4人目として再建を託されたのだった。

 アンチェロッティ監督の就任以来、着実にチームとして成長の一途をたどっているように感じられるが、ロペス氏は彼の指揮下におけるブラジルの軌跡をどのように見ているのか。

「彼はチームを安定させる要因となっています。このワールドカップに至るまでのサイクルは厳しいものでした。彼は2022年以降で4人目の監督であり、ブラジル連盟の幹部も、政治的な対立や汚職の告発によって交代がありました。それでも、彼の指揮下で、ブラジルは少なくとも進むべき道を見出し、選手たちも彼を慕っているようです」

 混乱の時代に終止符を打ち、チームに一本の軸を通したアンチェロッティ監督。その手腕が本当に問われるのは、ここからだ。個の能力と組織の成熟、そして指揮官への信頼。その三つが噛み合ったとき、ブラジルはかつての王国の威光を取り戻すかもしれない。日本が29日に対峙するのは、まだ進化の途上にある「新しいブラジル」だ。

(林 遼平 / Ryohei Hayashi)



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林 遼平

はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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