「玉田のゴールはブラジルっぽかったよ」 王国を本気にさせた衝撃弾…J助っ人たちが口をそろえた「ニア上」の秘密

2006年ドイツW杯で日本はブラジルに惨敗【写真:築田純/アフロスポーツ】
2006年ドイツW杯で日本はブラジルに惨敗【写真:築田純/アフロスポーツ】

「ブラジルを本気にさせちゃった」 玉田圭司が痛感した世界の壁

 日本時間6月30日、北中米ワールドカップ(W杯)の決勝トーナメント1回戦で、日本代表はサッカー王国・ブラジルと激突する。この大一番が決まり、2006年ドイツW杯での激闘を思い出したファンも多いはずだ。絶対王者から玉田圭司が奪い取った、伝説の先制ゴール。あの一撃に至る過程には確かな「伏線」があった。さらに、Jリーグを席巻したブラジル人ストライカーたちの言葉から浮かび上がった「シュートの秘密」。20年ぶりの大舞台での再戦を前に、当時の証言をもとにあのゴールの裏側を振り返る。(文=FOOTBALL ZONE編集部・瀬谷宏)

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 2006年6月22日、ドルトムントのヴェストファーレン・シュタディオン。勝たなければグループリーグ(GL)突破の道が断たれる日本は、すでにGL突破を決めていたブラジルと対戦した。“悪魔の左足”と言われたロベルト・カルロスやカフー、アドリアーノといった主力の一部は温存されたが、ロナウジーニョ、カカ、ロナウドといったメンバーは先発出場。「世界最強」の名に相応しいメンバーだった。

 前半34分、世界中を驚かせる瞬間が訪れる。左サイドを抜け出した三都主アレサンドロからのパスを受けた玉田圭司が、豪快に左足を振り抜き、ブラジルゴールをぶち破ったのだ。

 あのゴールは決して、劣勢の中で生まれた「偶然の産物」などではなかった。

 実は試合前の練習時、左アウトサイドを務めていた三都主に、前線を組む玉田との連係についてニヤリと笑いながら、こんな話をしていた。

「レフティーはレフティーの気持ちがわかるんですよ」

 三都主からの鋭い縦パスに、同じ左利きの玉田が完璧なタイミングで抜け出し、左足で仕留める。あの瞬間、2人のレフティーの感覚は見事にシンクロしていた。事前の狙い通りに世界王者の守備網を切り裂いた、必然のゴールだった。

 しかし、歓喜の時間は長くは続かなかった。あの先制点が、かえって「王者の逆鱗」に触れることになってしまったからだ。

 ロナウドの同点弾を皮切りに、ジュニーニョ・ペルナンブカーノ、ジウベルト、そして再びロナウドにゴールを許し、終わってみれば1-4の完敗。圧倒的な個人技と連係の前に、日本は成す術なくドイツの地を去ることになった。うなだれる日本イレブンのなかで、中田英寿がピッチに仰向けになった姿は印象的なシーンだった。

 試合後、ミックスゾーンに現れた玉田は、悔しさを押し殺すようにこう語っていた。

「本当に悔しい。先制ゴールでブラジルを本気にさせちゃったのかな。残念です。大舞台では一つ勝つのも難しい」

 あの玉田の言葉は、当時の日本サッカーが直面していた「世界との圧倒的な距離感」を象徴するものだった。

エメルソン、ジュニーニョ、ワシントンが口を揃えた「ニア上」の真実

 しかし、玉田がブラジルから奪ったあのゴールには、さらに興味深い後日談がある。

 シュートが突き刺さったのは、相手GKの「ニアの左上」。日本人の感覚ではなかなか狙わないし、極度のプレッシャーの中で正確に打ち抜くことも難しいコースである。

 大会からしばらく経ったある日のこと。かつて浦和レッズでプレーしたFWエメルソンと何気ない話をしていた時にふと、玉田のあのゴールの話題になった。すると、エメルソンはこう言ったのだ。

「タマダがブラジルから決めたあのゴールは、すごくブラジルっぽかったよ。ブラジルでは、シュートを打つときに最初に教えられるのが『ニアの上を狙え』なんだ」

 さらに驚きは続く。今度は川崎フロンターレで活躍したFWジュニーニョを取材した際、またも同じような話を聞いた。

「ブラジルではシュートを打つときに、ニアの上を狙えって言われるんだ。難しい? そんなことないよ。僕は小さい時からそういうシュートを打ってるからね」

 極めつけは、浦和レッズを数々のタイトルに導いたFWワシントンの言葉だ。

「シュートでニアの上を狙うのって難しいって日本人の選手は言うんだけど、ブラジルじゃ普通なんだ」

 ジュニーニョもワシントンも、当時はJリーグでの自身のゴールについて語っただけで、特に玉田のゴールについてのことではなかった。しかし、Jリーグでいずれも得点王に輝いたストライカー3人が、示し合わせたように口を揃えた「ニア上」というキーワード。GKにとって最も反応しづらく、防ぐのが困難な急所へのゴールの価値を感じさせるには、十分な“裏付け”だった。

 玉田は無意識のうちにか、あるいは天性のストライカーとしての嗅覚で、サッカー王国の「セオリー」を突き、ブラジルゴールをこじ開けていた。あの美しい軌道を描いたシュートは、不思議とブラジルのサッカー哲学と深くつながっていたのだと、感じずにはいられない。

 あれから20年。今回の北中米W杯で躍進を続ける現在の日本代表は、当時とは比べ物にならないほど多くの選手が欧州トップリーグで研鑽を積み、個々の力も組織力も桁違いに進化している。

 一発勝負の舞台で相対するカナリア軍団は、間違いなく最初から「本気」で日本を潰しにくるだろう。20年前のドルトムントの忘れ物を回収し、新しい歴史の扉を開くための戦いが、いよいよ幕を開ける。

(瀬谷宏 / Hiroshi Seya)



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