森保Jもクリア…W杯優勝に必要な黄金世代 見習うべき欧州の”当たり前”「Jリーグでどれだけある?」

W杯優勝国連載⑤“黄金世代”に必要な時間と蓄積
アメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されるワールドカップまであと1か月を切った。8大会連続8度目の出場となる日本代表は、今大会の目標に“W杯優勝”を掲げる。FOOTBALL ZONEでは「W杯優勝国の法則を探る」と題し、これまで優勝経験のある8か国を分析。第5回は黄金世代の存在について。(取材・文=中野吉之伴/全6回の5回目)
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ワールドカップ優勝は、一大会の勢いや偶然でたどり着ける場所ではない。過去、男子W杯で優勝を経験した国はわずか8つ。この20数年で初優勝を果たしたのは1998年のフランスと2010年のスペインしかない。世界王者になるには、それだけ長い時間と失敗の蓄積が必要だということである。
数字で見ても、その傾向ははっきりしている。1998年以降の優勝国の平均年齢は、ほぼ26〜28歳に集中する。1998年のフランスは約27.8歳、2010年のスペインは約26歳、2014年のドイツは約26.5歳、2022の年アルゼンチンは約27.7歳だ。
中心選手の年代が、フィジカルのピーク、国際経験、判断力、失敗体験の消化が重なるこのゾーンで、世界王者は生まれやすいのである。
98年のフランスは、突然頂点に立ったわけではない。94年W杯は欧州予選敗退。母国開催のW杯のために、そこから世代交代と組織整備を急ピッチで進め、96年の欧州選手権でベスト4入りを果たした。ジネディーヌ・ジダン、ディディエ・デシャン、リリアン・テュラム、ローラン・ブランら中核が国際舞台を経験し、98年に一気に結実した。
2010年のスペインも分かりやすい。2004年欧州選手権ではグループリーグ敗退、2006年W杯ではベスト16でフランスに敗れたが、2008年欧州選手権優勝を経て、W杯初優勝。30歳のシャビ、29歳のイケル・カシージャス、28歳のダビド・ビジャ、26歳のアンドレス・イニエスタが主軸となり、ようやく掴んだタイトルだった。
元ドイツサッカー協会のスポーツディレクターであるマティアス・ザマーが当時のスペイン代表について次のように評価していたことがある。
「スペインは90年から2000年代まで強豪国に数えられながら、まったくビックトーナメントで結果を出せないでいた。技術も戦術も高いレベルにあったのに、だ。彼らは考え、精神的にも強い選手が使われるようになったんだ。若いときから世代別代表でタイトルを勝ち取ってきたシャビやイニエスタ、ピケといった選手との融合が、スペインを王者にした。そしてシャビやイニエスタを天才と称する人が多いが、今の彼らに到達するためには、さまざまな取り組みが行われてきたことを忘れてはならない。長期的な視野ではっきりとしたビジョン・コンセプトを持って若手育成をやり続けてきたからこその現在の彼らなのだ」
2014年のドイツも同じだ。ベースになったのは09年U21欧州選手権優勝メンバー。マヌエル・ノイアー、マッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテング、サミ・ケディラ、メスト・エジル、ベネディクト・ヘーベデスらが主軸に成長し、そこにフィリップ・ラーム、バスティアン・シュバインシュタイガー、ミロスラフ・クローゼ、ルーカス・ポドルスキらが融合。2006年に母国で開催されたW杯でベスト4、2010年南アフリカW杯で3位、2012年欧州選手権ではベスト4。勝てそうで勝てない悔しさを何度も味わった世代が、8年かけて完成した。
世代間の融合はどうあるのが理想なのだろう。以前、元日本代表監督の二宮博氏に聞いた言葉が非常に示唆的だったことを思い出す。
「世界的にみてエネルギーをチームにもたらしているのは10代から20代前半の選手だと思う。それを中核としてチームとしてうまくまとめる役割を25〜30歳の選手がしている。カタールW杯でもアルゼンチンでメッシが活躍したことに異論はない。でも周りの若い選手がエネルギッシュにいろいろやったことで、彼がより輝いたんですよ」
この指摘は非常に重要だ。優勝国は単純に成熟しただけのチームではない。26〜30歳の判断力と統率力の上に、10代~20代前半の爆発力が乗って初めて完成する。
二宮氏が指摘するように2022年のアルゼンチンはそのバランスがとてもよかった。カタールW杯時にリオネル・メッシは35歳、アンヘロ・ディ・マリアは34歳だったが、ロドリゴ・デ・パウルは28歳、アレクシス・マック・アリスターは23歳、フリアン・アルバレスは22歳、エンソ・フェルナンデスは21歳だった。
同じ世代が複数大会で負けながら、苦い経験を積み重ねながら成熟し、最も脂の乗る年齢で再挑戦。2014年に準優勝、2018年は惨敗、2021年のコパ・アメリカ制覇を経て、ようやく世代の噛み合わせが整った。
若いエネルギーが世界基準で主役を張れて初めて、チーム全体の出力が上がるのである。
二宮氏はこうも言っていた。
「Jリーグで10代、20代前半の選手がクラブのエンジンとして優勝争いを引っ張るケースはどれだけありますか?欧州では当たり前にあるのではないですか?」
もちろん日本にだってそうした選手を積極的に起用するクラブもある。その中で素晴らしい成長を果たした選手たちだっている。ただ、欧州ではもっと多くの若手が速い段階でトップチームでの出場機会をつかむ戦いの中にいて、そこでどんどんステップアップを果たしていく例が多いのだ。
堂安律が、所属先であるフランクフルトのチームメイトについて、こう語っていたことがある。
「チャンピオンズリーグに対して身体を作ってきているというのはチームとしてあるし、若い奴にしてもそこへのモチベーションが高い。彼らからしたらステップアップするためのすごいチャンス。20〜21歳であそこの舞台に出られるというのは、僕はできなかったので、すごいうらやましい。その気持ちもすごくわかります」
世界のトップを目指す若手にとって、チャンピオンズリーグは遠い目標ではなく、今立つべき舞台として捉えられているという現実である。
日本代表にとって若い年代の選手が代表入りすることはあっても、確実に戦力として起用されて、活躍できるのか、となるとまだ色々と難しいところがある。
そのあたりが上手くいったのが、東京五輪世代だろう。堂安律、三笘薫(今大会は負傷でメンバー外)、板倉滉、冨安健洋、上田綺世、田中碧らは今大会でちょうど黄金年齢帯に入る。21年に行われた東京五輪ではベスト4、22年のカタールW杯ではドイツ、スペインを倒し、ベスト16を経験した。
そこに21歳の塩貝健人や20歳の後藤啓介らロサンゼルス五輪世代の選手たちが、代表でもポジション争いに加わってこれるのか。そして下の世代が、今の世代を凌駕する存在となり、爆発的なエネルギーでチームに風をもたらせるか。そうした継続的な主軸形成と新陳代謝がこれからの日本代表にも重要になる。
若手を起用することで生じるリスクもあるだろう。だがそれをも成長プロセスのサイクルに入れて、長期的な視点で成熟できるようになることが、これから先の日本代表にも必要になってくるはずだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。












