規律違反→名門校”除籍”「一番の挫折」 パン屋で早朝バイト…前田大然を変えた空白の1年

インタビューに応じた前田大然【写真:徳原隆元】
インタビューに応じた前田大然【写真:徳原隆元】

前田大然は名門・山梨学院高校でプレー

 日本サッカー界が誇る「韋駄天」が目指す先にあるものは——。スコットランド1部セルティックに所属する日本代表FW前田大然は欧州の荒波に揉まれ、魂を研ぎ澄ませてきた。目前に迫る2度目のワールドカップ(W杯)。「FOOTBALL ZONE」の独占インタビューでは“空白の1年”について口を開いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全3回の2回目)

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「やっぱり高校の時が一番の挫折だったかな」

 まだ表情には後悔が残る。前田にとって、それは文字通りの絶望であり、人生のターニングポイントだった。時計の針を山梨学院高校時代に戻す。地元・大阪で才能を開花させ、鳴り物入りで入学した名門校。だが、高校1年の冬、規律違反という若さゆえの過ちが、前田のサッカー人生を真っ暗闇に突き落とした。下されたのは、除籍処分。学校に呼び出されたのは、部員4人とその両親たち。張り詰めた空気の中、下された宣告に「大阪に帰るしかないんかな……」と思った。サッカーを失い、未来も見えない。だが、覚悟を持って山梨まで来た。「簡単に帰るわけにはいかんな」。母に自らの胸の内を明かした。

「お母さんは『大然がそうしたいならサポートする』と言ってくれた。本当に大変やったと思うんですけど、寮にいられなくなった僕を助けてくれた」

 4人のうち前田を含めた2人は寮を出なければならず、アパートを借りることに。急にスタートした一人暮らし。それでも、まだ高校生ということもあり、2人の両親が交互に山梨へ足を運んで生活を支えた。前田の母は大阪から夜行バスで通い、冷蔵庫がパンパンになるまで食事を用意。母の背中が今でも目に焼き付いている。

「当時はこういう現実があっても涙も出ないようなヤツやったんです。高校に入っても『俺はできるんだ』と思っていて、それが良くなかったと今では思っている。除籍の1年間で自分より相手のことを考えないといけないと思えるようにはなった。母も1、2時間の距離じゃないし、本当にしんどかったと思う。そんな母が僕には直接言わないんですけど『こういうことがあって大然は変わったよね』と周りには言ってくれているみたいで。そういうのを聞くと嬉しい」

 空白の1年ではパン店のアルバイトもしていた。早朝4時に起床し、5時には店へ。静まり返った店内で黙々と働く大人たちを間近で見た。

「あの経験はめちゃくちゃ大きかったと思う。クロワッサンの生地に卵を塗ったりして。朝早く起きる習慣もついた。その頃、社会人サッカーもしていたので、大人がどういうふうに考えて社会で生きているのか知ることができた。自分の考えは子供やなと痛感した。大人の考えに接していくうちに自分の甘さを認識して、勝手に吸収することができた」

 サッカーができない苦しみと、社会の厳しさ。新たな環境で触れた“大人の倫理”が、前田大然という人間の骨格を作り替えていった。自分という存在がいかに多くの人に支えられ「生かされているか」を肌で感じた。

 1年後、部への復帰が許されたとき、そこに立っていたのは“足の速さが取り柄のFW”ではなかった。他人のために、チームのために……今のプレースタイルにも通ずるどこまででも走り切る“献身的な男”への脱皮。根本から変化を遂げた前田大然の誕生だった。

 そしてプロの道へつながった。山梨学院高校からまずヴァンフォーレ甲府に練習参加。その時は「プロの壁を痛感した」。ベンチ外メンバーとのミニゲームでフィジカルも強度も技術も全く通用しなかった。「吉永さん(監督)はプロになれると言ってくれたけど、自信がなくなっていた」。だが、訪れた転機。松本山雅FCの練習へ3回参加すると事態は急転直下で動き出した。

「大学に進学するつもりやったのに、契約すると言ってもらえて、契約するために山梨学院まで来てくれた。気付いたらプロになれていた」

 真摯にサッカーへ向き合ってきたからこそ、道が開けた。今、前田を輝かせるのは暗闇で光を探した時期があったから。何より支えてくれた母への、魂の報恩。パン店で卵を塗っていた孤独な朝も、夜行バスで通ってくれた母の愛も、すべてが北中米の舞台へと繋がっている。「自分1人の力で走っているんじゃない。誰かのために、チームのために。それが僕のすべて」。それは消えることのないエネルギー源。その脚が描く軌跡には、不屈の魂が宿っているのだ。

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■前田大然、初の自叙伝を発売
◆書籍名:「がむしゃら なぜ俺は、こんなに走るのか——。」幻冬舎

◆書籍URL:https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344045804/

◆発売日 5月13日(水)

◆本人コメント
「代表戦のあとに深夜まで撮影した表紙の写真はお気に入りなので、ぜひチェックしてみてください。僕のサッカー人生がわかる一冊になっています。誰かのヒントになればいいなと思います」

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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