Jデビュー戦で衝撃弾も「むしろ危機感」 痛感したプロとの差…猪突猛進で示す実力「明確になった」

浦和デビュー戦で肥田野蓮治はチームを救うゴール
11月16日の関東大学サッカーリーグ1部の最終戦が終わってからインカレ開幕(12月6日)の前の週までの間、浦和レッズの練習に参加することになった桐蔭横浜大FW肥田野蓮治。ファジアーノ岡山戦の1週間前の立正大学との練習試合でスタメン起用され、ゴールを挙げた。(取材・文=安藤隆人/全4回の4回目)
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「もしかしたらスコルジャ監督が使ってみたいと言っている」
そんな話も耳に入ってきた。チャンスが来たと捉えた彼はより全力でアピールをした。そして試合の前日練習でスタメン組に入り、クラブ史上初の特別指定選手のリーグ出場が現実味を帯びてきた。そして試合当日、自分の名前がスタメンにあった。
「驚きというより、準備をしてきたので『自分のプレーを全力で出し切ろう』と落ち着いて臨むことができました」
ちょうどその時、浦和は直近のJ1リーグで3試合勝利がなく、ゴールもゼロだった。当然、チームもピリピリした状態で、この岡山戦を落としたらチーム全体に大きな影響を及ぼしてしまうような状況だった。そこで特別指定の選手が出場するということはプレッシャーも大きく、難しいシチュエーションと言えるだろう。だが、苦悩の夏を越えた彼は一切動じなかった。
「むしろ、こういう時に流れを変えられるのは僕のようなフレッシュな選手だと思ったので、ゴールを決めるなら自分だと思っていました」
岡山戦、サポーターの応援はなく、アウェイ席は満員だったが静まり返っていた。少し異様とも言える雰囲気だったが、集中力が研ぎ澄まされた彼は立ち上がりから自分のプレーを全うした。
【4-2-3-1】の右サイドハーフに入ると、縦突破と左足のキックを駆使して流れに乗ると、圧巻のシーンは72分にやってきた。センターサークル敵陣側でMF中島翔哉が鮮やかなターンでDF2枚を剥がして前を向くと、右サイドにいた肥田野は中島を見ながらDFラインの裏のスペースへ走り出した。
「練習から翔哉さんからスルーパスをもらう形が多くて、あの時はそのイメージがすぐに浮かびました。一回、少し外に膨らんで相手のスリーバックの真ん中のCBと左のCBのライン間を広げてから、一気にその裏に斜めに走り出しました」
中島のパスコースを作り出し、そこにスルーパスが来ることを信じてオフサイドにならないギリギリのタイミングで加速をして抜け出すと、まさに糸を引くようなスルーパスが足元に届いた。
「ボールが目の前で止まるような『優しいパス』だったので、自分で考える時間を作ってシュートを打つより、ボールが来たタイミングすぐで打てば、僕も変に迷わないし、GKもタイミングが掴めないかなと思ったので、間髪入れずにシュートを狙いました」
間合いを詰めてきたGKブローダーセンに判断する時間を与えないように迷わずダイレクトで左足を振り抜くと、コントロールされたボールはGKに触れられることなく、ゴール左隅に突き刺さった。
ゴールの瞬間、アウェイ側バックスタンドにぎっしりと詰めかけた浦和サポーターから大歓声が挙がった。その声に導かれるように肥田野は走って行って、大きくガッツポーズをした。そしてスタンドからは太鼓の音色と共に『肥田野コール』が沸き起こった。
ただの1点じゃない。クラブ初の特別指定選手の初スタメンで、チームをトンネルから救う値千金の決勝弾。殊勲の男は76分に交代を告げられてベンチに下がったが、その後に浦和サポーターからチャントの大合唱が始まった。
「ベンチでスタッフや選手たちに『お前のおかげで声援が戻ってきたぞ』と言われた時は嬉しかったですね。もちろん自分だけのことではないのですが、少しでも声援が戻ったきっかけが自分だったら嬉しいなと思っていました」
ゴール以外にももう1つ彼は爪痕を残した。それは岡山戦のGPSによる時速計測で、彼は時速35.3kmを計測し、これは浦和の歴代最高速度で、2025年のJ1リーグでは第6位タイ(2位が4人、3位が肥田野を含む3人)の記録だった。
まさに特大インパクトを残したデビュー戦を終え、大学に戻ると、彼は大学生活最後のインカレにキャプテンとしてチームの先頭に立って走り抜いた。
「決勝ラウンドに進めなかったことは悔しかったですが、この仲間たちと強化ラウンドでは一番長くプレーすることができた」
最後はすっきりとした気持ちで激動の大学サッカーを終えることができた。年が明け、2026年。いよいよ本格的なプロのシーズンがスタートする。
「あのゴールで期待をしてもらってはいるんですけど、そこにプレッシャーを感じないようにしています。開幕スタメンを目指している中で、あのゴール以上にそれを実現するために改善しないといけないことをたくさん感じたので、むしろ危機感が生まれたし、自分がやるべきことが明確になった試合になったんです」
岡山戦後、彼は何度も試合の動画を見返したという。見返したのは自身のゴールシーンではなく、守備のシーンや仕掛けるべきシーンで仕掛けなかったプレーだった。
「頭がフレッシュな状態で見返すことで、より鮮明に振り返ることができると思ったのですぐにやりました。いろいろな人からも指摘してもらったのですが、岡山は変則的な3バックだったので、自分のところで相手にプレスがはまっていないシーンもあったし、(右サイドバックの)石原広教選手にカバーをしてもらって、守備の部分では任せてしまったこともあった。そこでもっと自分が個できちんとプレスに行けるようにならないと、スコルジャ監督も自分を戦力として見てくれない。攻撃面でも縦突破からクロスや、相手を抜き切らずに左でアーリークロスを上げるシーンはあったのですが、カットインのドリブルがあまりなかった。もっとその自分が得意とする部分を出すことができれば、前への推進力が出るし、迫力も増すと思ったので、そこをトライしていこうと思いました」
この言葉通り、インカレでは激しい前線からの守備と、ボールを持ったらどんどん仕掛けてゴールに迫るシーンが何度も見られた。
「変に雑念を持たずに、どんどん前向きのプレーを仕掛けて、相手が一番怖いプレーができるFWになりたいと思っています」
浦和サポーターを揺らす準備は着々と進んでいる。インパクトをインパクトのままで終わらせないように。肥田野蓮治は培ってきたものをベースにしながら、猪突猛進で2026年の埼玉スタジアムのピッチを走り抜ける。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















