選手権V→50枚計画書で新規事業「僕がやるしか」 異色キャリアの男が繋ぐ「欧州と日本の架け橋」

マルハンに務める赤尾勝さんは市船出身
運命の一通が、情熱に火をつけた――。ベルギー1部シント=トロイデン(STVV)の一部株式取得資本業務提携とプラチナスポンサー契約を結ぶ株式会社マルハン東日本カンパニー。経営企画部チーフ・スポーツ事業CSO赤尾勝さんは名門・市立船橋高校サッカー部で全国優勝を経験した。現在は同社のスポーツ事業をCSOとして牽引。4年前、赤尾さんの歩みは再び「サッカー」へと大きく舵を切った。ビジネスとスポーツの架け橋となる、41歳の戦略家の挑戦に迫る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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1通の社内リリースが運命を変えた。2022年、赤尾さんの目に飛び込んできたのは「STVVとの資本業務提携」のニュース。マルハンに入社して18年、営業部門管理職として奔走していた赤尾さんにとっては、驚きと同時にある種の危機感と確信が同居していた。
「弊社とサッカーの出会いは過去(07年)大分トリニータのスポンサーが最初でした。当時、ナビスコカップ優勝などの記憶はありましたが、サッカーのスポンサー関係はそれからは長期的に続かなかった中で海外クラブとの資本業務提携・STVVのスポンサー契約を結ぶというリリースを見て、驚きと同時に誰が何をやるのか……いやこれはもう僕しかいないんじゃないか、と。せっかくサッカーという巨大なアセット(資産)が入ってきた。誰もやらないなら僕がやるしかない。チャンスだと捉えてすぐに動きました」
折しも、東日本カンパニー内で全従業員を対象とした新規事業提案制度が始まった時期だった。採択されれば自らが主導して事業化できる。赤尾さんは迷わずペンを執った。規定のフォーマットはわずか5枚。しかし、赤尾さんが提出したのは、50枚に及ぶ膨大な事業計画書だった。
「正直、インパクト重視でした(笑)。でも本気だった。ターゲット設定、PL(収支計画)、ブランディング……。やりたいことを全部書いたら50枚になってしまった。自己紹介欄には『市立船橋高校サッカー部で全国優勝したメンバーであること』を強調した。僕ならこういう人脈がある、こういう熱量で子供たちに様々な体験をさせられる、と。絶対に通らないだろうと思いつつ、思いの丈をすべてぶつけました」
その熱意は経営陣を動かし、1次、2次の審査を通過。そこから半年間の本社での研究期間が始まった。
シント=トロイデンとの事業「立石さんには明確な方針が」
研究期間中、赤尾さんは現場へ足を運び続けた。サッカースクールのニーズを調査し、保護者にアンケートを取り、留学の可能性をマーケティング。社長に向けての最終プレゼンの前に、STVVを率いる立石敬之CEOにも“共同でのサッカースクール立ち上げ”を提案。だが、突きつけられたのは厳しい現実だった。
「最初は断られました。立石さんには明確な方針があった。まだメソッドも確立していない中で、安易に名前だけを貸して生徒を集め、お金儲けをするようなスクールは作りたくない、と。元々お金儲けだけのスクール計画ではなかったですが……1度は諦めかけましたね」
赤尾さんは粘った。頭を捻り導き出したのが「公式スクール」ではなく、エッセンスを取り入れ、STVVのサポートを受ける形での「パワード・バイ・シント=トロイデン」という提携案。再設計した2度目のアタックで立石CEOの首を縦に振らせた。
2023年9月、千葉県八千代市に「ルーケストサッカースクールPOWERD by シント=トロイデン」が開校。現在では85人を超える子供たちが集まり、地元でも確固たる地位を築いた。マルハンは総合レジャー・エンタメ企業として太平洋ゴルフクラブ運営をはじめ、新規事業開発を積極的に実施しており、業種問わず様々な事業を展開。近年では都内最大級BBQ施設を併設した複合レジャーリゾート施設を運営しているものの、不安もあった。
「業界柄、マルハンがサッカーをやることにネガティブな反応があるかとも思った。実際は一切なかった。スクールのウェアの肩にはマルハンのロゴが入っているけど、保護者の方々からは『ここでしかできない体験ができる』と満足の声をいただいている。地域貢献や社会課題の解決という文脈で、不登校生専用のスポーツクラブなども立ち上げた。スポーツの力で、今までマルハンが関われなかった層に地域・行政の皆様と共同共創で貢献できているのは、STVVやDMMの皆様のおかげ」
赤尾さんの挑戦は、かつての「仲間」をも呼び寄せた。ベルギーの地で再会を果たしたのはかつて名古屋グランパスの黄金期を支え“新人王”も獲得したMF小川佳純氏。2人は市船時代の同級生。2年生の春、トップチームへの昇格を逃し、地獄のような遠征をともに乗り越えた戦友が、今回STVVでの指導者研修を受けることになったのも、赤尾さんとの偶然の再会がきっかけだった。

小川佳純氏との縁…ベルギーで新たな道
「昨年の5月(小川と)たまたまゴルフに行った。『お前、今何やってんの?』という話から、僕がSTVVの仕事をしていると話したら、彼が『実はProライセンスの研修で海外に行きたい』と。じゃあシント=トロイデンに行こう、と。トントン拍子で進んで今がある。1つ下の後輩のカレン・ロバートともマルハン×シント=トロイデンカップの運営で一緒に仕事ができており、卒業して20年以上経っても、市船の縁がこうして形になるのは本当にありがたいしうれしいです」
ベルギーの地は未来をつなぐ。赤尾さんが書いた50枚の計画書には、まだ実現していない夢がいくつも記されていた。
「直近2年以内に、スクールの子供たちからセレクションを行い、ベルギー(STVV)への留学を実現させたい。選ぶのは僕らではなく、現地のスタッフに来てもらって、本物の目で選んでもらい、選ばれた生徒は短期留学招待という形で実現させます。これはスクール立ち上げ当初からの目標です」
そして、赤尾さんにはもう1つ、壮大な夢がある。現在、千葉県八千代市や神奈川小田原市で小学4年生以下を対象に3年連続で開催している「マルハン×シント=トロイデンカップ」を、東日本カンパニーの拠点すべてで展開すること。さらにその各地域の優勝チームを集めた「チャンピオンシップ」を開催し、子供たちがよりレベルの高いサッカーと触れ合うことだ。
「決勝戦を、いつかSTVVがジャパンツアーで来日した際に、国立競技場の前座試合としてやらせてあげたい。子供たちが国立のピッチに立ち、STVVの選手たちのエスコートキッズを務める。そんな光景を本気で描いています。長期的な夢だけど、実現できると信じています」
入社当時は、自分が再びサッカーの世界で生きるとは思ってもみなかった。サッカーへの道を断念し「拾ってもらった」と感じていたマルハン。18年を経て、かつての仲間たちとともに、次世代のために汗を流す。
「僕は市船で日本一になったと言っても、試合には出ていなしベンチにいただけでした。仲間たちに優勝させてもらったようなもの。だから今、こういう形でサッカー界や会社に恩返しができていることが、最高に嬉しい。同級生の小川が素晴らしい指導者になり、後輩の畑くんが世界へ羽ばたき、そしてスクールの子供たちが夢を描き挑戦する。そのすべての『架け橋』になれるなら、この仕事に人生を懸ける価値があります」
市立船橋の魂を胸に、赤尾勝はベルギーと日本、そして夢を追う子供たちを繋ぎ続ける。その情熱は、50枚の計画書を遥かに超えるスピードで現実を変えようとしている。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)





















