強豪校で出番少→190cmの逸材SB誕生 代表入りも…転機となったチームのピンチ「やってみるか?」

明治大学の2年生DF小泉佳絃
大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。
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ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第4回は明治大学の2年生DF小泉佳絃について。CBが本職だった小泉は今年10月から右サイドバックにコンバートされたことで、いま新境地を開こうとしている。
190cmの右サイドバック。それだけで大きなロマンを抱きたくなる。小泉は大型CBとして青森山田高で選手権優勝を成し遂げてから鳴り物入りで明治大学にやって来た。
しかし、2年の秋までは分厚い選手層のなかに埋もれて、トップではなかなか出番が訪れなかった。今年の関東大学サッカーリーグ1部の前期から継続してベンチ入りこそ果たしていたが、出番はわずかだった。
だが、10月に大きな転機が訪れる。10月上旬の練習で右サイドバックが不足し、スタッフから「右サイドバックをやってみるか?」と言われてやってみたところ、周りも驚くほどのフィットしたプレーを披露した。
「サイドバックはこれまで振り返っても1度もやったことはありませんでした。でも、もともとスプリントや上下動は得意な方で、CBでもGPS測定のスプリント回数が多い方だったので、『やれないことはないな』とは思っていました。いざやってみて、CBではあまりやれなかった上下動を出そうと思ったら、自分でも手応えを感じるプレーができたんです」
生まれ持った身体能力とスピードがより生きる。本人も周りもそう確信できたことで、ここから大型右サイドバックが誕生した。直後の関東1部・第14節の日本体育大戦の後半から投入され、右サイドバックとしてデビューをすると、続く中央大戦ではスタメン出場を果たし、ここから定着をしていった。
圧倒的な空中戦の強さ、右足のキックの精度、そしてスムーズな身体操作から繰り出される質の高いスプリント。これまではこれを守備に活用していたが、サイドバックになったことで攻撃にも有効活用できるようになり、プレーの幅だけではなく、ポテンシャルも一気に広がった。
「攻撃はもともと好きでしたし、オーバーラップ、インナーラップ、プレスバックでスピードやスプリントを生かせるので、楽しいというか、発見が多いです」
新天地で急成長を遂げた小泉を周りは放っておくはずもなく、11月にはイングランド遠征を行うU-22日本代表のメンバー入り。選出された26名のうち、小泉だけが大学生だった。
「代表でサイドバックをやらせてもらって一番感じたのは、目の前の相手に勝つということはもちろんなんですけど、日常の中でいかにこの基準を落とさずに出来るかが重要だと思いました。ボーンマスと戦った時、縦への仕掛けの質、向かってくる圧力がかなりありましたし、一緒に戦ったU-22日本代表の選手たちも判断の質とスピード、パスの質とスピードなどかなり違うなと感じました。例えば市原吏音(RB大宮アルディージャ)選手とか、同じ右サイドバックの梅木怜(FC今治)選手とかは、全ての質が高くて本当にすごいなと思いました」
初めての年代別日本代表は彼に多くの刺激と学びをもたらした。同時に右サイドバックとしてどうあるべきかを考える大きなきっかけとなった。
「基準は本当に上がりましたし、この与えてもらった基準を明治に還元していかないといけない立場になってきたと思っているので、責任や覚悟を持ってピッチに立ちたい」
札幌大とのプレーオフ、チームにとって下位リーグとなる強化ラウンドに行くのか、決勝ラウンドに行くのか大きな分かれ道となる一戦で、小泉は右サイドで安定したパフォーマンスを見せた。ロングスローで先制点の起点となった以外は、大きなチャンスを作り出せたわけではなかったが、守備面では空中戦、1対1、カバーリングの面で安定感を発揮し、3-0の完封勝利に貢献した。
「今日の僕は何も出来ていない印象ですし、満足もできない試合でした。だからこそ、決勝ラウンドではもっと攻守に関わって、個人として圧倒できるプレーを見せていきたいと思います」
小泉に抱くロマンはさらに広がった。190cmの右サイドバックがここからさらに上のステージへ駆け上がろうとしていく姿を、今まさに見ることが出来ている幸せを感じる。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。












