鈴木優磨にも「ガツンと言える」 鬼木監督が変えた”チームの常識”「あまりないんですよ」

鹿島は今季9度目のリーグ優勝を達成した
9シーズンぶり9度目のリーグ優勝を果たした鹿島アントラーズは、苦しみ抜いた昨シーズンまでと何がどのように違ったのか。監督として川崎フロンターレで7個のタイトルを獲得し、黎明期に選手としてプレーした鹿島へ、覚悟をもって復帰した鬼木達監督の存在を抜きには語れない。51歳の指揮官はシーズンを通して、鹿島の中心を担う鈴木優磨と“火花”を散らすコミュニケーションを取りながらチーム力を高めてきた。(取材・文=藤江直人)
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予想をはるかに超える言葉が返ってきた。強烈すぎるインパクトに、聞き直したくなる思いにも駆られた。
鹿島アントラーズが9シーズンぶり9度目のリーグ優勝を決めた余韻が色濃く漂っていた、6日の横浜F・マリノス戦後の公式会見。今シーズンから鹿島の指揮を執り、2016シーズンを最後に国内三大タイトルに手が届かなかった空白期間にピリオドを打たせた鬼木達監督が、鈴木優磨を「尊敬できる」と称賛しながらさらに続けた。
「彼の一番すごいところは、チームの勝利を誰よりも強く願っている選手だな、と」
指揮官の言葉を鹿島の生き字引的な存在である鈴木満氏にもぶつけた。1996年2月に就任した強化育成課課長を皮切りに、強化部長をへてフットボールダイレクターと、強化の最高責任者を実に四半世紀以上にわたって担い、2022年1月からは現職の強化アドバイザーを務める鈴木氏は笑顔でこんなエピソードを明かした。
「鬼木は優磨を怒るから。優磨に対してガツンと言えるのが、鬼木の強さだと思いますよね」
来年4月に30歳になる鈴木優磨は、リーグ戦と天皇杯の二冠を獲得した2016シーズンを経験した数少ない選手の一人となって久しい。他には柴崎岳、植田直通、三竿健斗しかいないなかで、ベルギーのシント=トロイデンから復帰した2022シーズン以降は副キャプテンなどを務めるなど、ピッチ内外で鹿島を牽引してきた。
中堅からベテランの域に達しようとしている鈴木優磨を怒る。いったい何があったのか。鈴木満氏が続ける。
「グラウンドでもどこでも優磨に対してガツンと言うから。優磨はそういう(チームの中心を担う)立場の選手だけど、その優磨でも怒られる、というのはチーム内の公平性などの点で、やはり若い選手に対してね」
鬼木監督はどのような状況で、鈴木優磨の何に対してカミナリを落とすのか。鈴木満氏がさらに続けた。
「自分勝手なプレーをしたときとか、気持ちがカーッとなって平常心でプレーできなくなったときに怒る。チームを上手くコントロールしているというか、人間管理が本当に上手いと思っています」
鈴木優磨自身はどのように受け止めていたのか。7月までに3連敗を2度喫しながら、夏場以降は10勝5分けと15戦連続負けなしでフィニッシュ。勝ち点1ポイント差で柏レイソルを振り切った要因を「やはり日々のトレーニングの取り組みだと思います」と振り返りながら、鬼木監督のアプローチに言及した。
「誰よりも監督が妥協を許さないので。点を取った次の週も普通に怒られるので。あまりないんですよ。特にFWは点を取った次の週は気持ちよく練習できるんですけど、初日のトレーニングで怒られたりするので。それが僕を含めたチーム全員に対して現状に満足させず、さらに上を目指していく意識にさせて、結果としてチーム力のアップにもつながっていく。そうした部分は、やはりさすがだなと思いましたね」
以心伝心と言うべきか。鬼木監督のマネジメントに対して、鈴木満氏とまったく同じ思いを抱いていた。
「僕や植田(直通)くんのように年齢を重ねてくると、やはり(監督からは)何も言われなくなってくるんですよ。そこでチームの中心になるような選手たちに厳しく言って、僕たちもしっかりと向き合っていけば、下の選手たちも『やらなきゃいけない』となる。そのあたりの見せ方も上手いな、よく考えているなと思いました」
表現はちょっと悪くなるが、鈴木優磨や植田が上手く利用されているわけでもない。本人がこう締めた。
「厳しいものはありますけど、その分、監督は常に自分へベクトルを向けているので。監督からは『負けたときの責任は自分が取るから、思い切ってプレーしろ』と言われてきたし、ボスが自分にベクトルを向けている以上、僕たち選手も自分にベクトルを向かないわけにはいかない。今シーズンはそれがいい方向にいったと思います」
いまも忘れられない2017年12月2日。リーグ戦連覇へ王手をかけて臨んだ最終節で鹿島はジュビロ磐田とスコアレスドローに終わり、大宮アルディージャに快勝した川崎フロンターレに勝ち点で並ばれ、得失点差で後塵を拝して2位に終わった。当時の川崎を率いていたのが、デビュー1年目の鬼木監督だった。
「鬼木に奈落の底へ突き落とされた鹿島を鬼木が救ってくれた。リーグ戦の悔しさを払拭するには、リーグ戦でチャンピオンにならないと。これで肩の荷が降りたというか、背中にくっついていたのが取れました」
鹿島でプロのキャリアをスタートさせた鬼木監督と、指導者と選手の関係だった時期もある鈴木満氏は黎明期の記憶を懐かしんだ上で、来シーズン以降を見据えながら「これでまた強くなるよ」と目を細めた。
「この優勝は大きい。こういう達成感を味わうと、勝てなかったころと比べて、もう一回、という欲が出てくる。チャンピオンのプライドも出てくるし、勝者のメンタリティーという点でもかなり変わってくる。加えて鬼木の練習を見ていると、彼の思うサッカーの達成度はまだ30%とか40%くらい。まだまだ伸びしろもあるからね」
2018シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)こそ制した鹿島だったが、国内三大タイトルに限れば20冠を達成した2016シーズンを最後に、実に8年間も足踏みした状態を余儀なくされてきた。
自分たちは勝たなければいけない、という重圧がいつしか呪縛へと変貌。タイトル争いにすら加われなくなったどん底から解き放たれた鹿島の中心に、優磨とのやり取りに象徴される裏表のないマネジメントを駆使しながら、Jリーグ史上で初めて異なる2つのクラブでリーグ戦の頂点に立った鬼木監督がいる。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。





















