強豪大でベンチ外→J内定「感謝しかない」 もがき続け掴んだ集大成「苦しんだおかげで強くなれた」

明治大学のスピードレフティーMF三品直哉
大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。
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ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第2回は明治大学のスピードレフティーMF三品直哉について。札幌大学とのプレーオフで怪我から復帰直後ながら、83分まで精度の高い左足とハードワークを披露し続けたアタッカーに迫る―。
「自信はあったのに思うように自分のプレーを出せない。本当にもどかしい時期があった」
帝京大可児高校時代は日本代表の鈴木淳之介が中央に君臨し、三品は右サイドアタッカーとしてスピードあふれるドリブル突破やカットインからの左足のシュートで攻撃にアクセントを加えた。リズムに乗ったら手がつけられない選手で、俊敏性を生かしたキレのあるドリブルで何度もチャンスを作っていく姿を何度も見た。
三品が明治大学に進学すると聞いたときは納得だった。「将来プロになる選手だな」と思い、明治大でのブレイクを期待したが、大学2年生の10月まではピッチで三品の姿を見ることはなく、スタンドで応援している姿ばかり見ていた。
「なかなかうまくいかないです。自分をうまく表現できないというか、選手層も本当に分厚くて、苦しいなと感じるときは多いです」
とある関東1部リーグの試合後、ジャージ姿の三品とばったり遭遇したとき、苦悩の表情を浮かべてこう口にしていた。
その年の11月に悲願のリーグデビューを飾るが、昨年はトップチームのベンチ入りこそコンスタントに果たすが、出番は思うように訪れなかった。
「もっと自分の武器を出していかないといけないし、先輩だけではなく、同期にもいい選手がたくさんいて、自分が試合に出て活躍するのは並大抵の努力では叶わないと思っています。だからこそ、腐ってなんかいられないし、前を向いて自分がやるべきことをやるだけです」
自信を失ってもおかしくない状況だったが、「自分ならできる」と自らを信じ、ドリブルと左足のキックを磨きながら、課題であった守備面では前線からの果敢なプレス、献身的なプレスバックとボランチのサポートなど、意欲的に取り組んでプレーの幅を広げた。
こうしたコツコツと積み重ねた努力が実り、昨年のインカレでは準々決勝、準決勝と途中出場を果たし、準決勝では新潟医療福祉大にPK戦の末に敗れたが、この経験が大きな財産になった。
「ずっとベンチにいてあの重要な場面で使ってもらえた。でも、勝利に貢献できなくて先輩たちの悔し涙を見て、本当に自分がもっとやらないといけないと思ったし、最高学年になるので後悔の無いように全力で毎日に取り組もうと思った」
メンタル面でも大きな成長を得ると、今年は開幕戦でスタメン出場を果たした。だが、それでも毎試合スタメンとはいかず、ベンチ外の時もあったが、3年間前を向いて取り組んできた強さは、この苦境でも三品を支え続けた。
「これまで、これでもかと苦しんだおかげで、自分がより強くなったと思うし、何度もトライできる姿勢を持ち続ける土台になったと思います」
リーグ終盤で再びスタメンの座を掴み取り、個人としても鹿児島ユナイテッドがその左足の精度とドリブルのキレ、そして明治大で磨いた献身的な守備を評価して正式オファーを出してくれた。
「今年の夏の段階で自分がプロになれる確信は正直ありませんでした。でも、僕のことをしっかりと見てくれていた鹿児島には感謝しかないですし、オファーをいただけたときはもう迷うことなく即決をしました」
関東1部・第20節の流通経済大戦以降は、股関節を痛めた影響で離脱を強いられたが、インカレには間に合った。プレーオフの3日前には大学でプロ内定選手会見にも出席をし、気持ちを新たにすることができた。
「こうして明治のユニフォームを着て、プロ内定者としてプレーできていることが本当に嬉しいですし、周りに感謝をしています。僕の大学サッカーは調子が良い時の方が短くて、大事な時期に怪我をしたり、チャンスを掴み切れないなど自分自身に納得いかなかったりしたことが多かったのですが、苦しい時に何ができるかを考える力は身についたし、これからプロになればそういう場面も必ず出てくると思うので、明治で培った力をプロで発揮できるように。その前に4年生としてこの集大成の大会で、明治に何かを残したいという気持ちが強いからこそ、明治のために全力を尽くしたいです」
ようやく高校時代に見せていた躍動感溢れるプレーが帰ってきた。いや、よりキレとインテリジェンスが増した状態になった。苦しかった4年間であり、最高の4年間に最後の彩りを加えるべく、『紫紺の疾風』はこれまでの熱い想いをプレーに込めて右サイドで躍動を見せる。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















