Jで異彩を放ったスタイル「新しい時代」 攻撃だけじゃない意外な数字「幸せにする」

今季リーグ戦を2位で終えた柏【写真:徳原隆元】
今季リーグ戦を2位で終えた柏【写真:徳原隆元】

柏のリカルド・ロドリゲス監督は今季から就任した

 柏が圧倒的に異彩を放ったシーズンだった。

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 最終的には勝ち点1の差で鹿島に及ばず2位に終わったが、チームを大改革したリカルド・ロドリゲス監督は誇らしげに強調した。

「長いシーズンを戦い抜いて我々は5敗しかしていない。それより負けが少ないのは、鬼木達監督が率いた黄金期の川崎のみ。多くの方々を幸せにするのは、このスタイルだと確信できた」

 川崎が最小失点を記録したのは、18チーム制だった2017年(4敗)や2020年(3敗)のことなので、20チーム制に移行した直近2年間で「5敗」は最高成績である。しかも柏は、決して守りに重きを置くわけではなく、常にボールを保持して攻撃性を貫きそれでいて負けなかった。上位を争ったライバルチームが、概ね堅守を基盤に速いカウンターに活路を見出そうとしてきた混戦レースの中で、唯一柏だけが長くゲームをコントロールしながら最良の結果(準優勝2つ=J1とルヴァンカップ)を手にした。そういう意味で指揮官は、トレンドに迎合しない確固たる芯の強さを備えていた。

 確かに最終的にシャーレを掲げたのは、柏より2つ勝ち星を上乗せした鹿島だった。鹿島には、Jリーグ内ではティボー・クルトワ(レアル・マドリード、ベルギー代表)並みの存在感を見せる早川友基が君臨し、内容を覆す勝利を手にする試合も少なくなかった。しかし柏はリーグ断トツの59.3%もボールを支配し、1試合平均にして2位の新潟を70本以上も上回る609.8本ものパスを繋ぎながら、鹿島を2試合上回るクリーンシート(18試合)を記録した。まさに攻撃こそ最大の防御を体現するサッカーを披露したことになる。

 アウェイの川崎戦で4-4の激闘を終えたロドリゲス監督は語っていた。

「勝っていても常に追加点を狙い続ける。そういう攻撃的フィロソフィーでプレーし続ける方が選手の成長にも繋がる」

 反面気になるのはJの潮流である。総体的に走行距離も増えて守備の強度も高まり、その中でリスクを避けゴールを目指すためには直線的な速い攻撃が効率的だと思考しがちだ。実際昨年まで連覇を果たした神戸や、J2から著しい躍進を遂げた町田も、そのスタイルを徹底して成果を挙げた。だがさすがに両チームともに攻撃面での課題に直面し、リーグ最終戦で柏に敗れた町田の黒田剛監督も「上手くポケットを取るなど攻撃的なスキルを上げていかないと上位定着は難しい」と語っている。

 そもそも「日本サッカーの日本化」を提唱したイビチャ・オシムを筆頭に、Jで一世を風靡したアーセン・ベンゲル、アンジェ・ポステコグルーらの監督たちも、ボール保持や攻撃のダイナミズムを追求して来た。さらには遡れば日本サッカーの父と呼ばれるデッドマール・クラマーも含めて、日本人独特の巧緻性や俊敏性をいかに活用していくかに主眼を置き、チームを構築しようとしてきた。

 サッカーには、主に2種類の勝利がある。ひとつは文字通りの勝利で、どんな大会でも頂点に立てるのは1チームだけだ。だが一方で多くのファンを魅了するパフォーマンスという勝利もあり、歴史を俯瞰しても長く人々の心に残るのはこちらの方だ。

 最終戦を終え黄色に染まった日立台(柏スタジアム)で、ロドリゲス監督はこう挨拶した。

「選手たちは、本当に魅力的なサッカーを表現してくれた。このスタイルで日本サッカーに新しい時代を築くことが出来ると思う」

 ブラジル国民は、24年ぶりに世界一を奪還した1994年のセレソン(代表)より、ジーコ、ファルカンら黄金のカルテットを擁しながら敗れた1982年のチームを愛している。また世界中の多くのファンが、1974年ワールドカップで準優勝したヨハン・クライフ躍動のオランダこそが、20世紀最大のインパクトを残したことを信じて疑わない。

 サッカーが単なる勝ち負けだけに終始する競技なら、これほど地球上を包み込むこともなかったはずだ。だからこそ「どう勝つか」以上に「どう戦うか」「どう魅せるか」が大切になる。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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