J1昇格も…プロ1年目は「めちゃくちゃ悔しかった」 最後に示した成長「決めようと」

試合を決定づける2点目を決めた山本隼大【写真:徳原隆元】
試合を決定づける2点目を決めた山本隼大【写真:徳原隆元】

水戸の山本隼大「ゴールから遠ざかっていて、個人的にはめちゃくちゃ悔しかった」

 1点だけではまだ追いつかれるリスクが高い。追いつかれたらJ1への自動昇格の道は断たれる。J2最終節の水戸ホーリーホックvs大分トリニータの一戦、1-0という緊迫した展開が続いていた後半30分、水戸の大卒ルーキーのMF山本隼大のスーパーミドルが炸裂した。

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 ペナルティーエリア内左でボールをキープしたMF塚川孝輝のバックパスを受けると、マッチアップした大分FW有働夢叶に対して細かいボディフェイントで揺さぶった後に中央へカットイン。少し斜め後ろにボールを運んで、有働とカバーにいたMF野村直輝の足が届かない場所に置いてから、迷わず右足を一閃。

 右インフロントにうまくかかったボールは弾丸ライナーでゴール右隅へ。ゴールキーパーが必死に伸ばした手に触れるも、勢いで押し切る形でゴール右サイドネットに突き刺さった。

「カットインからのシュートは自分の持ち味。ボールを受けたときに、(横のスペースに)カバーもいなかったので、そこは持ち味を出して思い切って自分で仕掛けて決めようと足を振りました。いいコースに飛んでくれたなと思います」

 2試合連続のゴールは、昇格と優勝を一気に手繰り寄せる貴重な追加点となった。

 山本は専修大学4年生のときから特別指定選手として、J2リーグに15試合出場、うち8試合にスタメン出場をして1ゴールと、すでに頭角を現していた。ルーキーイヤーの今年は左ウイングをメインとしてリーグ全試合に出場(うちスタメンは21試合)と欠かせない存在になっている。

 特徴は180センチのサイズを持ちながらも、圧倒的なスピードとアジリティーを誇り、左右のサイドハーフ、ウイングとして縦への推進力とカットインからのシュートスキルを発揮するだけではなく、トップ下でもボールを収めたり、裏抜けからフィニッシュまで持っていったりと攻撃的なポジションをどこでもこなし、かつ前への推進力を出せるアタッカーということにある。

 名古屋高時代から前への推進力はずば抜けていて、中盤に落ちてボールを収めて叩いたと思ったら、次の瞬間には一気にゴールに向かって加速して抜け出しているなど、スケール感を含めて異質な存在だった。

 専修大でも左ウイングを中心にプレーし、高速カットインからの破壊力あるシュートはまさに専売特許だった。当時、専修大は関東大学サッカーリーグ3部だったが、西村卓朗GMに見出されて3年生で水戸に内定して今に至っている。

「僕はストライカーではないのですが、ゴールはやっぱりずっと求めていました。すべての試合に出させてもらっているにも関わらず、(J2第13節の)藤枝MYFC戦以来、ずっとゴールから遠ざかっていて、個人的にはめちゃくちゃ悔しかった。(前節のV・ファーレン)長崎戦でようやくゴールを決めることができて、最後は連続ゴールで締めくくることができたのは良かったと思います」

 水戸での2年間で、山本は明らかに成長をした。その成長部分を挙げるならば、プレスバックの質と奪ってからのカウンターの際の動き出しとボールを受けてからのバリエーションだ。

 名古屋高、専修大時代は裏抜け以外はどちらかというと前線やサイドに張り出してボールを受けてから、自分のタイミングで仕掛けることが多い選手だった。

 しかし、水戸の森直樹監督はサイドの選手への守備のタスクが細かく、かつショートカウンターとポゼッションからのラインブレイクの際に最大出力を求めてくる。最初はそこに戸惑っていたが、驚くべきスピードでアジャストしていった。

「プレスバックのところは本当に意識していますし、もしやらなかったら、いつもそのワンシーンを切り取られて指摘されることが多い。だからこそ、必ずやらないといけないものとしてずっと意識をしてきました。奪ってからの前への飛び出しも求められているので、森監督のサッカーを常に頭に入れてプレーすることを大事にしてきました」

 今季の終盤にかけては、斜めの上下スプリントの質がかなり向上した。

 守備面では逆サイドにボールが展開されたときに縦に戻るのではなく、斜めにスプリントをしてボランチのカバーやセンターバックのところでプレスバックできるようにスプリントする。同サイドの裏に展開されたときは自分で寄せにいくだけでなく、サイドバックのカバーや奪ったときのビルドアップの入り口としてスペースに顔を出す。

 攻撃面では高速帰陣を見せた後に、そのスピードを殺さないようにスラロームターンをして一気に前に出ていくなど、技術、戦術、そして身体操作とスピードの活用でワンランク上のプレーを披露した。

 そしてシーズン締めくくりとなるゴールは、まさに大学時代に専売特許としていた形。もう一度あのシーンを振り返ると、相手のディフェンダーの立ち位置をしっかりと把握して、意図的にボールをずらしてから振り抜くという、過去と今を組み合わせたまさに“至高の一撃”だった。

「J1は個のレベルも1段階上がるからこそ、そこでもチームとしてやるべきことプラス、自分の良さを出し続けていきたい。自分のところで1対1に勝つことができれば、ゴールにつながると思うので、これからもっと磨きをかけていきたいです」

 いざ、さらなる飛躍のシーズンへ。初のJ1の舞台でも屈強な高速アタッカーとして献身性と“一撃”を披露していく。

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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