時代に逆行する“柏の戦術” 流れるパスで優勝争い…世界席巻した「ティキ・タカ」

縦に速い攻め込みとマンマークのプレッシングが支配的になるなかで優勝争い
かつて「ティキ・タカ」が世界を席巻していた。2008年の欧州選手権でスペイン代表が優勝。続く2008-09シーズンではジョゼップ・グアルディオラ監督率いるバルセロナが国内リーグ、カップ、UEFAチャンピオンズリーグの3冠を達成。ティキ・タカの時代が華々しく始まっている。
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ティキ・タカという言葉にとくに意味はなく、パスワークのリズムを表したメディアの造語だが、スペインとバルセロナが行ったプレースタイルをティキ・タカであるとすると、ティキ・タカは戦術的に時代の転換点だった。
1990年代にゾーナル・プレッシングが急速に広まった。当初は革命的だったが2008年時点ではもはや普通の守備戦術になっていた。どのチームもゾーナル・プレッシングを実装した時点で表れたティキ・タカはいわばその天敵で、そのためスペインとバルセロナはともに無双状態になった。
ティキ・タカの特徴はゾーンディフェンスの操作にある。例えば守備側が4-4-2の場合、ミッドフィールダーの4人で形成するラインには3つの「門」が存在する。ティキ・タカはこの2人の選手が並ぶ門の間にボールを通過させて前進する。
門の間にボールを通過させることが難しい場合は、別の門の間を狙う。その際、1つの門を閉じさせる。門の間、またはその前後に位置する選手の足下にパスを出すと、その受け手の左右にいる相手選手が近づく。つまり門を閉めようとする。1つの門の間隔が狭くなれば、必然的に別の門の間隔は広がるので、今度はそちらを狙う。
門の開閉を操作するにはパスの出し手が門の中間点の延長に位置していなければならない。ここが不十分だとパスやドリブルが引っかかってしまう。そのため、門を通過する、門を閉めさせる、この2つの他に門の開閉を操作できる位置にいる選手にパスするという作業が加わる。この3つのどれかをずっと続けるのがティキ・タカの特徴で、ゾーンディフェンスの規則性の弱点を直撃するものだった。
おそらくティキ・タカの絶頂期は2011-12シーズンだと思う。
2011年12月のインターコンチネンタルカップでバルセロナがサントスに勝って優勝。2012年夏の欧州選手権でスペイン代表がイタリア代表を破って連覇達成。どちらのファイナルもスコアは4-0、そしてゴールキーパーとディフェンダー以外はミッドフィールダーというティキ・タカに特化した構成だった。
バルセロナの3トップはダニ・アウベス、メッシ、チアゴ。偽9番のメッシをミッドフィールダーとするとフォワードがいない。スペインはシャビ・アロンソ、シャビ、イニエスタ、ブスケツ、セスク、シルバ。どちらの決勝もほぼ1つのチームしかプレーしていないくらいボールを保持し続けた。相手の体力と精神力を削り続けていた。
その後、対戦相手がプレッシングを諦めて非常に低い位置での守備ブロックに専念するようになってティキ・タカの効果は薄れていった。ティキ・タカを実行できるチームもいなくなった。
Jリーグでは柏レイソルがティキ・タカを行っている。以前は川崎フロンターレや横浜F・マリノスなど、ティキ・タカ風のパスワークを披露したチームもあったが、現在はほぼ柏だけになった。縦に速い攻め込みとマンマークのプレッシングが支配的になるなかで、柏が優勝争いをしている。時流に逆行しているのか、それともここから新しい流れが生まれるのか興味深い。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。





















