観客騒然の決勝弾「フリをした」 ジョーカーから主役へ…よぎった”5分前の記憶”「最初から狙ってくると」

昌平のMF長璃喜の決勝弾で優勝
第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。
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第26回は埼玉県決勝の昌平vs武南から。昨年度のインターハイ王者と伝統校の一戦は両者一歩も譲らず。一進一退の攻防が続いた後半アディショナルタイム2分、昌平のMF長璃喜の閃光のようなドリブルシュートが決まり、昌平が2年ぶり7回目の選手権出場を手にした。
スーパーゴールで一瞬にして試合の主役となった長。あのゴールには多くの駆け引きが詰まっていた。
0-0で延長戦突入が濃厚になっていた後半アディショナルタイム2分、自陣左サイドタッチライン付近まで落ちてきた長の足元へ、左サイドバックの古川雄規が強めのパスを送り込む。
これに対し、すかさず武南の右サイドバックの田中理月が、トラップ側を奪うべく右足を伸ばしてプレスに行くと、彼はすかさず左半身を引いてパスを引き込むようにして田中の足の先にボールをすり抜けさせると、そのまま左足で前にボールをタッチして一気に加速した。
ワンタッチで田中を置き去りにすると、そのままドリブルでペナルティーエリア付近まで運んでいく。そこで対峙してきた武南のCB田村大地とのマッチアップになった瞬間、長の頭の中には5分前のプレーの残像が浮かんだ。
「相手の右サイドバック(田中)に対して、カットインを仕掛けたら最初から読んでいたかのように反応されて奪われたんです。おそらく相手はカットインを最初から狙ってくると思った」
一瞬にして思考を巡らせると、「わざとカットインするフリをして、食いついた瞬間に縦に行く」という判断を下した。あとは持ち前のずば抜けたアジリティーと正確なボールタッチを駆使して任務を遂行するだけだった。
中央に切れ込んでいきながら、田中が食いついた瞬間に鋭く右足で切り返して左前のスペースにボールを置くと、そのまま左足をしならせてから一閃。ボールは対角のコースを正確に転がって行ってゴール右隅に吸い込まれた。
昨年度のインターハイ決勝の神村学園戦で見せた50m独走ドリブルシュートと同じような圧巻のスーパーゴール。埼玉スタジアムに詰めかけた多くの観衆のどよめきはゴール後もしばらく収まらなかった。
このゴールが決勝弾となり、準々決勝で聖望学園に敗れた昨年の屈辱から這い上がる2年ぶりの選手権出場を手にした。
「準々決勝や準決勝は本当にチームに助けられて、ここまで連れてきてもらった。だからこそ、決勝は自分のゴールでチームを勝たせたいと思っていたので、それが出来て嬉しいです」
喜びよりも安堵の方が大きかった。初戦となった準々決勝の浦和学院戦は後半アディショナルタイム3分にDF森井智也が執念のヘッドで2-2の同点に追いつくと、PK戦の末に勝利を掴んだ。準決勝の成徳深谷戦でも延長戦までもつれ込む激闘を演じて3-1で制するなど、苦しい試合の連続だった。その中で長はバー直撃のシュートなど、決定機には絡むもゴールを挙げることはできていなかった。
責任を感じてきた男の意地の一発回答。1年時には全国選手権において3試合連続ゴールで、うち2つが終了間際での劇的な同点弾と決勝弾。昨年はチームを初の全国優勝に導く決勝弾を挙げるなど、重要な場面で値千金のゴールを決めてきた男が、今回も予選決勝の大舞台での一撃を披露するのは、「さすが勝負強い長」の一言に尽きるだろう。
「シュートの意識は常に持っていて、シュートにつなげるドリブルは練習中に『ここは普通ならパスを出すだろうな』というシーンでもドリブルで仕掛けていくなど、何度も繰り返しトライすることでいろんな形を身につけてきました。もしかしたらエゴに映るかもしれませんが、『自分が決める』という気持ちを持つことは大事だと思っています。今日も自分が何回か決定機を外した時に、『このまま負けたらまずい』という思いが自分の中にあって、パスというより『必ず俺が決めてやる』と思えたので、決勝ゴールにつながったと思います」
2年ぶりの選手権の舞台。1年次はジョーカー的な存在だっただけに、今回は最初から主役としてピッチの上で何回も閃光のようなドリブルを見せて、ゴールだけではなく、観客の心をも奪うプレーを刻んでいく。




















