昨季選手権ヒーローの苦悩「戸惑ってしまう」 “ドリブル以外”磨くも…全国で「自分を解放したい」

前橋育英の白井誠也【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
前橋育英の白井誠也【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

前橋育英のドリブラー・白井誠也

 第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。

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 第19回は群馬県決勝の前橋育英vs前橋商業の伝統の「群馬クラシコ」から。前年度選手権王者は、伝統校の前橋商業の全員守備、全員攻撃に手を焼くも、前半に挙げたMF柴野快仁(FC今治内定)のゴールを守り抜いて5年連続28回目の出場を決めた。昨年度の選手権のヒーローとなったドリブラー・白井誠也が過ごした1年を描く。

「どんな相手と戦っても、常に警戒をされている。それが続いている感覚です」

 右サイドハーフの位置から相手の懐に潜り込むようなドリブルで、一気に何人も抜いてゴールに迫っていく。昨年度の選手権では弾丸のようなロングドリブルが何度も炸裂し、観衆を沸かせた。そのインパクトは彼が思っていた以上に凄まじく、全国の高校生たちの記憶に刻まれたものだった。

 新チームが立ち上がると、どの相手と試合をしても、「あれが白井だ」と言われて周りからの視線を感じた。試合になると相手は必ず縦に1枚、その後ろに1枚もしくは2枚とドリブルコースを消しながら複数のマークを当ててくるようになった。

 当初はその徹底マークに苦しんだが、プレミアリーグEASTが開幕すると、周りとの連携を重視してシンプルなプレーを心がけるようになった。

「大学や上のレベルに行くにあたって、絶対にドリブルだけでは通用しない。ドリブルを警戒されるからこそ、逆にワンタッチで仕掛けられる部分もある。中に入って受けて前を向いてつなぐとか、周りとの連携を意識するというプレーの幅を広げることによって、逆にフリーで受けた時に積極的に仕掛ければ、マッチアップした相手からすればリズムがそこで変化する。読みにくくて、より奪いづらい選手になれると思って取り組んでいます」

 試合を追うごとに白井のワンタッチプレー、中継のプレー、3人目の動きなど、ドリブル以外のプレーの技術、判断の質は確実に向上をしている。だが、白井がリズムを作り出すプレーをし始めているにもかかわらず、相手はいつもシーズン開幕時と同じように縦を切り、カバーをつけて、複数枚でドリブルコースを消しにくる。

「僕に複数枚来てくれる分、周りは空くのでワンタッチプレーやサイドチェンジなど、連携面ではやりやすいのですが、ドリブルで仕掛けたいなと思ってもそこが第一に塞がれているので、そこは毎回戸惑ってしまいます。僕以上に後ろの右サイドバックの(瀧口)眞大がオーバーラップや攻撃参加をしたいのに、縦のスペースをずっと消されている状態なので、ストレスがかかっていると思います」

 2人でこの状況をどう打開するかをいつも話し合っているという。練習の中で動き方をアレンジしたり、白井が引きつける動きをしてサイドを開けたりと、動きの工夫を重ねていた。だが、それでも相手はなかなか白井への厳重警戒を解いてくれない。

 決勝の前橋商戦でもそうだった。白井がボールを持つと素早く複数のマークがつく。白井がシンプルにボールを動かしても、彼のサイドへの警戒を置いた状態で、逆のFWやインサイドハーフ、ウィングバックが落ちて来て果敢なプレスバックなどを仕掛けて空いたスペースを埋める。だが、この徹底したやり方に対し、白井はこの状態でも虎視眈々とドリブルを狙っていた。

 ゴールには至らなかったが、アタッキングエリアに入ってから潜り込むような鋭いドリブルでサイド突破をして、1つの決定機を生み出した。

「間違いなく頭の中の引き出しの数が相当増えました。1年前にはなかったいろんなアイデアがどんどん浮かんでくるからこそ、ここからはいかにその中でドリブルを選択して仕掛ける回数を増やせるかだと思います」

 もう一度、あの舞台に立つ権利を掴むことはできた。彼にとって2度目の選手権は驚くほどワクワク感しかないという。

「おそらく選手権では気持ちが乗ったら、どんどん仕掛けていってしまう。あの観客の数と声量を聞いたら、どんどんアドレナリンが出て仕掛けたくなると思うんです。山田(耕介)監督にはずっと『仕掛けて取られることは、全く問題はない』と言われているので、最後の選手権では昨年のように自分を解放したい。スイッチが入った状態でどんなプレーが披露できるのか、自分でも楽しみにしています」

 この1年間、何度も壁に打ち当たり、悩み苦しみ、考えながら前に進んできたからこそ、今の境地に達することができている。ブレイクのきっかけを掴んだ夢の舞台で、彼は1年前からの成長を見せつける形で、緑のピッチに再び閃光を刻む。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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