トルコで発覚…複雑化する八百長ビジネス 審判員を買収…日本には手を出さない理由

スュペル・リグで起きた八百長問題【写真:ロイター/アフロ】
スュペル・リグで起きた八百長問題【写真:ロイター/アフロ】

トルコリーグは八百長問題に揺れている

 2025年秋、トルコサッカー界は、その根幹から崩壊する危機に立たされている。国内リーグで1000人以上の選手が懲戒委員会に送られ、約150人の審判が賭博行為で停職処分を受けたのだ。

 トルコリーグ(スュペル・リグ)ではたびたびスキャンダラスな出来事が起きる。2024-25シーズン、アダナ・デミルスポルはガラタサライと対戦した際、前半12分に取られたPKに対して抗議し、同30分過ぎに試合を放棄した。ガラタサライはその試合まで含めて10試合のうち6試合でPKを獲得しており、その内訳は先制点が3回、同点ゴールが2回、そして勝ち越しゴールが1回という背景もあった。

 この試合から8か月後、トルコサッカー連盟は内部調査で現役審判571人のうち371人が何らかのベッティングアカウントを持ち、そのうち152人が実際にサッカーの試合に賭けていたことが発覚したと発表した。トルコの検察官は、このスキャンダルの調査の一環として、17人の審判と2人のサッカークラブ会長を含む21人の拘留命令を出している。

 かつて「八百長」と言えば試合の勝敗を意図的に変えるためのものだった。そのためには多くの選手や審判が買収される必要があり、必然的に関係者が多くなったために発覚したこともあった。1980年に発覚したイタリアの「トトネロ」は、ミランやラツィオのセリエBへの降格などという重い処分が下される事態となった。

 この「トトネロ」では、1978年アルゼンチンワールドカップで活躍したパオロ・ロッシも関与していたとして3年間の出場停止になった。だが、1982年スペインワールドカップの直前に処分が軽減され、大会に出場すると6得点で得点王とMVPを獲得して「スキャンダルからの贖罪」という形で終わりを告げた。それでも決してそこで世界中の八百長が終わったわけではなかった。

 その後、八百長は発覚しにくいものに変化していく。勝敗(マッチ・フィクシング)ではなく、試合の特定の事象(スポット・フィクシング)になったのだ。賭博市場は勝敗だけではなく、「どちらのチームが先にイエローカードを受けるか」「どの選手が最初に警告されるか」などを対象とするようになった。

 そうなると関係者は少なくてすむ。チームメイトの協力も必要ない。イエローカードを受ける選手一人だけでいいのだ。実際にアイルランドリーグで「イエローカードをもらえば多額の金銭を受け取れる」とアプローチされた事例が報告されている。また、試合の勝敗にも関係しないため、疑惑の目を向けられる心配も少なくなる。

 やがてこの魔の手はレフェリーに伸びる。レフェリーはスポット・フィクシングを実行する上で、最も「完璧な」立場にいるのだから。そうやって指示どおりにジャッジしたレフェリーは、金銭を受け取るとその場面を隠し撮りされ、その後も脅され続けることになる。

 日本のレフェリーは誘惑に晒されないのか。かつて国際的に活躍していた審判に匿名を条件に取材したことがある。そこで語られたのは、国際大会で八百長を仕掛ける側は、日本には手を出してこないということだった。日本の審判を買収するよりも、もっと安い報酬で八百長に加担しそうな国があり、そういうレフェリーは狙われているという。

 また日本サッカー協会、Jリーグは「インテグリティセミナー」を開催し、他の国からの講師を招いて「八百長」問題を取り上げて対策を講じている。totoの対象でもあるため、特にこの「清廉性」は重視されていると言えるだろう。

 もっとも、今回のトルコサッカー界の問題は、そこからさらに踏み込んでいる。レフェリーが誰にも気付かれずベッティングアカウントを持っていれば、さらにそのベッティングサイトを使って自分の判定で稼ぐことができるのだ。

「審判自身が賭博者となる(インサイダー・ベッティング)」の場合、自分の意志だけで「八百長」ともいうべき行為から金銭を得ることができる。しかもベッティングサイトが海外にあるのなら、余計に追求しにくいものになってしまう可能性がある。

 金銭が動く以上、どうしても不正を考える人たちは出てくる。それを防ぐためには、まず継続的な「啓発活動」を行い、世界中でインテグリティを高めていくことが必要だ。

 さらに、「八百長」あるいは「意図的な反則プレーや判定」がないか、監視・判定するようなシステムも構築する必要があるだろう。試合前は試合関係者すべてが電話やインターネットにアクセスできないような仕組み作りも必要かもしれない。

 何よりも重要なのは、対象者に十分な報酬が支払われていなければいけないということだ。ある海外チームは、買収の相場が日本円で70万円だったため、クラブがそれ以上の勝利給を支払うことにして八百長を防いでいるという、嘘か誠か分からないような噂が流れたことがあった。今や選手だけではなく、審判にもそういう考えが必要になってきている。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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