残り2節でさらに混沌…昇格チームなしの超魔境J2 見逃せないスタイル激変させた名門の存在

プレーオフ入りを目指す磐田にも注目【写真:徳原隆元】
プレーオフ入りを目指す磐田にも注目【写真:徳原隆元】

J2は残り2節となったが、いまだ昇格チームは確定していない

“魔境”J2も残りあと2節。いまだ昇格チームが1つも確定していない、例年以上の混戦となっている。プレーオフを入れると、現在8位のサガン鳥栖まで、昇格の可能性が残されているのだ。首位の水戸ホーリーホックは悲願のJ1昇格を目前にした前節、ホームでRB大宮アルディージャを相手に、途中投入された杉本健勇に2発を許し、0-2の敗戦。2位のV・ファーレン長崎と勝ち点1差に。3位に浮上した大宮とも勝ち点4差に迫られた。

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 一方で逆転の自動昇格に望みをつなぎたいジェフ千葉も、ホームで残留争い中の藤枝MYFCと1-1の引き分け。大宮と同勝ち点ながら得失点差で4位に後退している。徳島ヴォルティスはホームのヴァンフォーレ甲府戦、エースのルーカス・バルセロス、中盤の要である鹿沼直生の二枚を出場停止で欠きながら、経験豊富なエウシーニョの先制弾を皮切りに、4-1で勝ち点を伸ばした。

 ベガルタ仙台はFC今治に逆転負けしたショックを引きずることなく、残留争いのロアッソ熊本に2-0の勝利。最近3試合で4得点と爆発中のFW宮崎鴻が頼れる存在に成長。J3高知ユナイテッドで前半戦10得点のFW小林心が、強力なジョーカーとして勝利の導き手となっている。

 5位の徳島と6位の仙台は同じ勝ち点61で並んでおり、ここから2連勝できれば、大逆転で自動昇格を掴む可能性はある。特に次節は水戸と長崎の直接対決となるため、はっきりと白黒が付いた場合、負けた側は最終節で大きなプレッシャーを受けることになるだろう。

 7位のジュビロ磐田は勝ち点60。残り2連勝すれば、仮に長崎が連敗すれば勝ち点は並ぶが、得失点差に大きな開きがあり、現実的には6位以内でプレーオフ入りを目指すことになる。

 安間貴義監督の就任から1か月、ここまで4勝1敗の磐田が見せている変化は明確だ。“アクションフットボール”で常に主導権を握るスタイルを掲げたジョン・ハッチンソン前監督とは対象的に、手堅い守備を土台に、堅実に試合を運びながら、要所で本来の攻撃力を発揮して勝利を拾う。アウェーのヴァンフォーレ甲府戦で初陣を飾った後に、徳島ヴォルティスにホームで0-4の大敗を喫したが、強いリバウンドメンタリティを発揮して愛媛FC、V・ファーレン長崎、レノファ山口を相手に、苦しみながらも3連勝。シーズン終盤で、昇格のために勝利をひたすら求めるチームの矢印が定まり、昇格争いを白熱させる存在となっている。

山形の後半戦の成績は昇格圏のチームにも匹敵する

 次節は最近6試合無敗のモンテディオ山形をホームに迎える。シーズン途中から横内昭展監督が率いる山形は安間監督も認めるタレント力があり、かつて磐田を率いた指揮官の鼓舞により、個々の頑張りも目立っている。前回のアウェー山形戦は0-0の引き分け。だが当時とは両チームともに監督が替わり、チーム構成にも大なり小なり変化が見られる。今回は代表ウィークを挟み、前節から2週間の準備期間があり、お互いに分析と対策を施して、それをぶつけ合う形になる。

「山形戦でどうやって勝ち点3を取れるか。ましてやホーム最終戦なので。本当に勝ちが絶対ですし、そこにどうやって勝ち切るかをしっかり準備したい」

 そう語るのは磐田のリーダー格の一人である上原力也だ。長崎戦から導入した3-5-2の中盤で、中村駿、金子大毅と3ハーフを組み、攻守のバランスワークとチャンスメイクを司る上原は「今は勝利を確実に取らなきゃいけないフェーズだし、次の試合は課題を克服する試合にしようとか、いいところをどんどん出していこうというフェーズではなくて。クラブとしても、チームとしても、そこは何試合か前にそう共有したし、選手それぞれそうやって思ってると思うので。今はとにかく、次の試合どうすれば勝てるか」と言い切る。

 3バックの長崎や山口と違い、4-2-1-3をベースとする山形にどのシステムを選択するかは蓋を開けてみなければ分からないが、やるべきことははっきりしている。「0-0の時間を嫌がらない」という安間監督の基本プランを選手が忠実に実行しながら、どこで攻撃のギアを入れていくか。土居聖真を起点とした中央攻撃に強みのある山形に対して、いかに中盤をタイトにして効果的な縦パスを入れさせないか。

 攻撃では松原后やここ数試合は右サイドで起用される倍井謙が鍵を握る。前を向いて1対1になれば、松原も倍井も危険なクロスに持ち込めるため、マテウス・ペイショットやブラウンノア賢信の高さもゴール前で生きてくる。ただ、山口戦の前半のように下がりながらの守備が増えると、相手ゴールまでの距離が遠くなり、味方同士の距離感も悪くなるのは安間監督になってからの磐田が陥りやすい罠だ。

「できれば早めに点取って勝ちたいし、楽な交代がいいです。笑」

 リードを許して苦しい戦いになった山口戦に関して、安間監督や磐田の選手たちも手放しで喜んでいる訳ではない。どんな内容でも0-0でしのげれば、豊富な経験に裏打ちされた安間監督の選手交代がハマり、終盤の決勝点に結び付くかもしれない。ただ、愛媛戦のように前半でビハインドを背負ってしまうと、横内監督が率いる山形はそう簡単に、磐田に逆転勝利のシナリオを許してはくれないだろう。

 理想は安定した守備をベースに山形の隙をうかがいながら、前半に機を見た攻撃でリードを奪い、アドバンテージを持って後半に入ることだが、少なくとも0-0で後半勝負に持ち込みたい。もちろん、いざリードされてしまった場合でも、愛媛戦の成功体験は生きてくるはずだが、最初から頼りにするべきものではない。

「勝ち点1でも、可能性がなくなる訳じゃないけど、勝ってライバルにプレッシャーをかけるには3が必要。本当に最後の1試合で、それぞれにプレッシャーはあっても結局、優位なのは上の順位にいるチームなので。僕らは勝ち点3が必要です」

 そう語る安間監督もここから4試合の戦いがあることは覚悟の上で、まずは山形戦の勝利に全力を尽くす意気込みを見せている。

 改めて昇格争いに目を向けると、残り2試合となっても混沌としている。代表ウィークを挟んで、J2優勝と自動昇格を狙う首位の水戸と2位長崎が直接対決、3位の大宮と4位の徳島が“6ポインター”を戦う構図だ。4位の千葉は未だ降格の可能性を残す16位の大分トリニータと、6位の仙台はアウェーで14位のブラウブリッツ秋田。8位から昇格プレーオフ入りに希望を繋ぎたい鳥栖は、藤枝MYFCと、それぞれアウェーが舞台となる。

 上位のライバルを追いかける立場である磐田としては後半戦の成績を見ても、昇格圏のチームにも匹敵する山形に勝ち切るしかないが、試合後に見る景色がどうなっているか。最終節にはJ1だった昨シーズンに敗れた“鬼門”のアウェー鳥栖戦が待っているが、ホームの山形戦で勝ち切ることにフォーカスしていきたいところだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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