現日本代表も背負った伝統の“8”「え、俺なの?」 入学から18キロ増…全国で示す番号の価値

帝京大可児の3年MF後藤眞生(写真中央)【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
帝京大可児の3年MF後藤眞生(写真中央)【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

帝京大可児3年MF後藤眞生「8番に見合う選手に」

 第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 今回は岐阜県予選決勝、大会6連覇中の帝京大可児と近年メキメキと頭角を現してきた新鋭・美濃加茂との一戦から。帝京大可児の背番号8には特別な思いがある。8番を背負ってピッチに立つMF後藤眞生が見つめる視線の先にあるものとは―。

「最初は『今年は誰が8番を背負うんだろう?』と思っていたら、新人戦の時にまさかの自分だったので、『え、俺なの?』と本当に驚きました。でも、ボランチとしてボールを取られないプレーには自信があったので、『8番に見合う選手になろう』と覚悟を決めました」

 帝京大可児の8番と言えば、日本代表の主軸にまで登り詰めているDF鈴木淳之介(コペンハーゲン)を始め、MF杉本太郎(徳島ヴォルティス)や昨年の攻守の要であるMF松井空音(阪南大)など、錚々たるメンバーが背負ってきたチームの中心を示す番号だ。

 後藤は昨年までレギュラーを掴んだわけではなく、昨年度の選手権では初戦の大分鶴崎高戦で試合終了間際に途中出場でピッチを踏むことはできたが、続く3回戦の前橋育英戦はベンチ外となった。

 だが、2-3の激闘を演じた前橋育英戦を外から見て、大きな衝撃と共に彼の中で意識変化が生まれた。

「もともと僕は小さくてすばしっこさが特徴のトップ下の選手だったのですが、身長が12cm伸びて177cmになったので、もっと守備で潰してパワーで運べるような選手になりたいと思っていました。ボランチにコンバートされて、よりその意識が高まったし、何より前橋育英のオノノジュ慶吏(慶應義塾大)選手を見て、『全国レベルで対等にやるには自分のフィジカルでは全然ダメだ』と思ったんです。オノノジュ選手や流通経済大柏のDF奈須琉世(流通経済大)選手を見て、身体つきが全然違ったし、下半身の馬力が凄まじくて、一瞬で詰めてくる部分だったり、対人で体を入れる瞬間のパワーだったり、球際の部分で大きな違いが生まれる。僕もそういうプレーができるようになりたいし、あの2人と対峙しても負けない選手になりたいと思って肉体改造を始めました」

 これまであまりやってこなかった筋トレを中心に、全国で戦える身体づくりを徹底した。気がつくと身長だけではなく、体重も入学時から比べて18kgも増えて、足元の技術と突破力に加えて、当たり負けしないフィジカルを駆使したハードワークも自身の武器になった。

大きな刺激を受ける元チームメートの2人

 プリンスリーグ東海を戦っていくにつれて、プレーの強度が増していくのを実感していくと、美濃加茂戦ではダブルボランチを組んだMF伊藤彰一が前に積極的に出る中で、アンカー気味に攻守のバランスを支え続けた。

 得意の運ぶドリブルやパスで攻撃の起点を生み出すプレーをするだけでなく、守備でのハードワークで中央に鍵を掛けると、3-1で迎えた79分には左サイドでボールを持つと圧巻のプレーを見せつけた。

 対峙した相手を食いつかせると、股抜きでかわしてから一気に右足アウトサイドで運びながら左ポケットに侵入。カバーに来たDFをキックフェイントで交わすと、今度はもうワンタッチ中に持ち込んで、GKのタイミングを外した瞬間にそのまま右足を一閃。GKのニア上を強烈に射抜く一撃を沈めて試合を決定づけた。

「攻守のバランスを意識してプレーしていますが、アタッキングエリアに入ったら、あのゴールのようにこれまでずっと磨いてきた俊敏性とテクニックで仕掛けていくプレーを出して行けるので、今年に入ってプレーの幅はかなり広がったと思います」

 全国で受けた衝撃と8番に対する責任感が彼を大きく成長させた。それだけではない、彼にはもう1つの大きな刺激があった。

「(中学時代に所属した)フェルボールのチームメイトが2人もプロが決まったことで、『負けていられないな』と強く思いました」

 流通経済大柏に進んだMF島谷義進が水戸ホーリーホックに内定し、サガン鳥栖U-18に進んだFW水巻時飛がトップ昇格を果たしたのだった。中でも島谷は当時同じトップ下のポジションで、スタートで島谷が出て、途中からジョーカー的な存在として後藤が入る形だった。卒業するまでレギュラーを奪い取ることができなかったこともあり、強く意識する存在だった。

「義進は中学時代から攻撃も守備もうまかった。何より人間的な部分が凄くて、周りに自分が思ったことをはっきりと伝えられる力、厳しく言える力があって、彼を中心にチームはまとまっていた。高校になって僕と同じようにボランチにコンバートされて、一気にハードワーカーとして凄まじい能力を見せつけるようになった。今年1度練習試合をした時も、義進にかなり潰されて、本当に凄い選手だと心から思った。早く追いつきたいと思ったことも意識の変化につながりました」

 多くの刺激を経て、テクニカルで屈強なボランチへ成長し続けている姿は、まさに帝京大可児の8番に相応しい。

「もっと8番の価値を上げていきたい。そのためには残りのプリンス東海の3試合で残留を決めて、選手権でベスト8の壁を打ち破っていかないといけない。残り1か月、自分の成長とチームの成長にこだわって、より駆け引きやハードワークの部分を見つめ直していきたいと思います」

 技巧派集団の帝京大可児の心臓は、8番の誇りを胸に熱くその鼓動を鳴らして全国の舞台に立つ。

(FOOTBALL ZONE編集部)

page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング