右SBが「なんでそこにいるの?」 “黄金カード”で大暴れ…監督も驚愕「エンジンが人と違う」

流通経済大柏の乙川宙【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
流通経済大柏の乙川宙【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

流通経済大柏3年DF乙川宙は市立船橋との準決勝で2得点に絡む活躍

 第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。

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 今回は千葉県予選準決勝、流通経済大柏VS市立船橋のビッグカードから。ともにプレミアリーグEASTに所属し、「昨年度準優勝校vs一昨年度ベスト4」という全国大会決勝でもおかしくないカードは、延長戦までもつれ込む激闘の末に4-3で流通経済大柏に軍配が上がった。右サイドバックながら電光石火の2ゴールに絡んだ流通経済大柏の3年生DF乙川宙の凄まじい能力にスポットを当てる。

「彼はもう搭載しているエンジンが人とは違うからね」

 流通経済大柏の榎本雅大監督が口にするように、乙川の運動量、スプリント力、そして持久力は凄まじいものがある。右サイドバックに位置していながら、気づいたら「そこにいる」。特に攻撃的な嗅覚が凄まじく、ファイナルサードではサイドでも中央でも、ポケット(ペナルティーエリア内の左右のスペース)にも顔を出してくる。

 驚くべきはそれが左右どちらもというところだ。さっきまで右サイドにいた選手が、目を離した隙に左サイドにいる。左右両方から正確なクロスとシュートを狙ってくる、まさに圧倒的なプレーエリアを誇るサイドバックだ。

 プレミアEASTでは18試合に出場し、1ゴール3アシスト。ベスト4に進んだインターハイでも1ゴールを挙げた。そして、今予選の大一番でもこの恐るべきエンジンをフルに発揮して見せた。

 開始早々の2分、市船のGK辰侑樹がロングパントキックを蹴った時、乙川はセンターライン右の手前にいた。その競り合ったこぼれをMF上田哲郎が前線に蹴り出した瞬間、乙川はハーフラインを越えて一気に加速体勢に入った。浮き球のボールをFW渡辺瞳也が収めてから前線の左のスペースに浮き球のボールを出すと、GK辰が飛び出して処理をしようとしたその瞬間だった。DFの背後から加速した乙川が突然現れてボールを先に触ると、滑り込んでキャッチしようとした辰の足に引っかかって転倒した。

 すぐさま主審はPKスポットを指差してホイッスル。開始わずか2分で流通経済大柏がPKを獲得した。このPKをMF島谷義進がきっちりと決めて、貴重な先制弾を導き出した。

 そしてわずか4分後、GK藤田泰土のロングキックが相手ペナルティーエリア付近に届いた時、すでに乙川は抜け出そうとしたFW金子琉久のすぐ後ろにいた。金子が先にボールに到達すると、飛び出してきたGKをよく見て右にずらしてから右足シュート。そのシュートが左ポストを叩いた時、真っ先に跳ね返りに反応したのが乙川だった。

 こぼれに反応した市船DF3人の背後から静かに加速をして、一瞬先にボールを触ってゴールに押し込む。ゴール裏で写真を撮っていた筆者からすると、「右サイドバックがなんでそこにいるの?」と驚いた瞬間でもあった。

高性能なハイブリッドカーのエンジン

 いずれの2ゴールともセットプレー崩れではない。セットプレー崩れなら、サイドバックがそのまま残ってあの場所にいることは分かるが、全て自陣からの流れであり、2点目はGKのキックからだった。

 榎本監督のエンジンという比喩を借りるのであれば、乙川のエンジンは高性能なハイブリッドカーのエンジンと言えようか。ギュンと加速するのではなく、静かに動き出して、静かなまま加速していく。だからこそ、ゴールシーンを振り返っても、後方から加速してきても誰も気付いていないように無音で、突然目の前に現れるからこそ対処がしづらい。

「市船戦の前の週に市船を想定した紅白戦をやったのですが、そこで自分がゴールを決めるシーンがあって、特に金子のシュートのこぼれを僕が押し込むシーンもあった。なので、『今日はどんどん上がって行ったらチームの攻撃にプラスになるんじゃないか』と思って、そのイメージを持って今日に挑みました」

 まさにイメージ通りのゴールだった。それ以降も「縦パスをFWが競り合ったり、収めたりした時に、その周辺にいることでボールを受けて攻撃につなげる意識を持っていた」と、攻撃的な姿勢を持ってプレーし続けた。

「自分の持ち味は出足の速さと持続力」と口にする乙川に、この武器がどうやって培われたかと聞くと、こう返答をした。

「僕はFC多摩ジュニアからジュニアユースに昇格したのですが、16人中8人が昇格する中で、僕はギリギリの8番目くらいでの昇格だったので、『このまま何もしないで進んだら埋もれてしまう』と強い危機感を抱いたんです。もともと走りには自信があったので、ひたすら長距離走、シャトルラン、坂道ランを繰り返したら、中学に上がる頃にはより持久力がついて練習にもついていけるようになっていたんです」

 この努力が唯一無二の武器を生み出し、今年の流通経済大柏の大きな武器となっている。

「この持久力をスプリント以外にも、ビルドアップや崩しの部分で関われる力を養うために生かし続けてきた3年間でした。この3年間で大きく成長できたと思うからこそ、決勝でも全力で自分の運動量をフルに発揮して勝利に貢献したいし、選手権に必ず出て、今度こそ優勝をしたい。しっかりと準備をしたいです」

 昨年度の選手権はスタンドで応援をしていた。今度はピッチでその圧倒的なハイブリッドエンジンの性能を披露すべく。乙川は専大松戸との決勝に臨む。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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