激減した堂安律の平均シュート数 昨季3.49→1.71…口にした「ゴールまでの距離が遠い」の真意

フランクフルトの堂安律【写真:アフロ】
フランクフルトの堂安律【写真:アフロ】

フランクフルト移籍1年目で着実にフィットしてきている堂安律

 日本代表MF堂安律がフランクフルトに移籍して3か月近くが過ぎた。ブンデスリーガ、ドイツカップ、そしてチャンピオンズリーグと過密日程を戦うフランクフルトで、ほぼすべての試合でスタメン出場を果たしている。

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 ただここ最近、ゴールやアシストから遠ざかっていることを心配するドイツメディアが少しずつ出てきているのも確かだ。ナポリとのCLアウェー戦では初めてスタメンから外れ、出場機会も訪れなかった。

 ビルト紙は「堂安はここ最近ウイングバックの位置でプレーをしていて、より守備的なプレーを余儀なくされている。オフェンスの状況になかなか顔を出せないのはコーチ陣も分かっている」と説明していたが、確かにそれも一理ある。

 実際ずっと右ウイングでプレーできた24/25シーズンには、ブンデスリーガキャリア最多となるシュート数111回をマーク。1試合シュート数平均にすると3.49本。それに対して今季はここまで公式戦14試合でシュート数25本、平均1.71本。統計でみたら確かに減っている。

「ウイングバックでプレーしているとゴールまでの距離が遠い」ということは本人もよく口にしていたし、右ウイングでプレーするときとはシュートへ絡める頻度も変わってくるだろう。

 ただウイングバックでプレーしているのは、ドイツカップ2回戦のドルトムント戦とハイデンハイム戦とまだ2試合。それ以外は右ウイングやオフェンシブなポジションでプレーをしているのだ。ポジションだけが理由ではない。

 では、フランクフルトでなかなかゴール前に顔を出す頻度が増えてこないのはなぜだろう?

 フランクフルトのクラブマガジンに堂安のインタビュー特集が組まれ、自身の特徴について次のように表現していた。

「僕は総合力を持った選手だと思う。ゴールを決められるし、アシストもできるし、守備もできる。左足からのキックは最大の武器。1人で3-4人ドリブル突破するようなタイプではない。チームメイトとコンビネーションでプレーするのが好きだし、その流れでペナルティエリア内に侵入していける。シュート力は悪くないと思う」

 フランクフルトでもパスは出てきている。でも堂安にリターンでパスが返ってくることが、まだそこまで多くはないと思われる。

 レバークーゼン戦後に堂安が言及していたことがある。

「今日はシュートにいけるタイミングがなかった。終わってから監督とも話しましたけど、両ウイングが今日シュート打っていない。ゴールまでの距離が少し遠いという感じがあります。多少中で受けたいなというのはありますね」

 堂安はワイド、インサイドハーフのスペース、相手守備ライン裏への抜け出しとさまざまなパターンでパスを引き出すことができる。ボールを収めると味方にボールを預けてから、そのまま足を止めずにペナルティエリア内へと侵入し、そこから危険なアクションができるというのが特徴だ。

 フライブルク時代の終盤は、そんな堂安の良さを最大限引き出そうと、仲間選手が堂安へどんどんパスを渡すし、戻すという関係性が築けていたが、フランクフルトではまだ局面的なやり取りになっている。

 本来、堂安はウイングバックの位置からでもゴールチャンスに関与できる選手だ。ゴールまでの距離が遠くても、何度も上下動を繰り返せるだけのフィジカル能力と意志の強さを持っているし、フライブルクでプレーしていたころは、しっかりとゴール前に顔を出して、多くの得点チャンスに絡んでいるのだ。

 ドルトムントとのカップ戦では呼吸の合う元ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェ、デンマーク代表DFラスムス・クリスティアンセンが近くでプレーしていたので、パス交換もやりやすそうではあった。ゲッツェとのポジションチェンジで中に入り込むシーンだってあった。

 相手からの警戒レベルは相当高いし、どんな試合でも激しいマークにあうが、それをかいくぐれるだけのスキルと賢さを持っている。サイドからのクロスに高い打点のヘディングでゴールに迫ったシーンだってあった。延長に突入したこの試合では、115分に堂安のFKからゴールかと思われたが、残念ながらオフサイド。その他にもバー直撃の惜しいシュートを含め何度も好機に絡んだ。

 そんな誰よりも走り戦った堂安が、PK戦でシュートを外してしまったのはあまりに無情すぎる。試合後にキャプテンのロビン・コッホは「今日僕らはみんな全てを投げ出して戦った。誰を批判することができるだろうか」とチームの健闘を讃える言葉を残していたが、もちろんこれは堂安にも向けられている。

 クラブでの過密日程+日本代表でも全力でプレーする堂安の足だってさすがに鈍ることはあるだろう。ハイデンハイム戦では疲労具合を危惧してそれこそ出場さえも危ぶまれていたが、それでも出る決断をしたところに、堂安の強さとチームへの思いが現れているではないか。

 トルコ代表ジャン・ウズンはハイデンハイム戦の26分に、左太もも裏の筋肉損傷で数週間の離脱を余儀なくされてしまったが、ディノ・トップメラー監督が次のように話していた。

「ここ最近、なぜ彼がスタメンじゃないのかと疑問に思っていた人もいるかもしれないが、これでその理由がはっきりしたはずだ。彼はまだ3日間のリズムでトップパフォーマンスを引き出すことに慣れていないんだ」

 それほどトップレベルで試合に出続けるというのは過酷なことなのだ。堂安にしたら新加入クラブで、いろんなことが新しいなかでプレーすることの負担は想像以上のはず。それでも堂安はいつだって前を向いて、次のチャレンジに備えていく。

 フライブルク時代の最後に堂安はこう語っていた。

「個人的にはファイナルサードの質は間違いなく上がったと思います。どんどん成熟してきて、どこにボールがこう入ってくるとか、どうやったら点が入るのか、サッカーというものを分かってきている」

 チーム事情やタスクワークで制限されることがあっても、自身の強みをチームに還元できるのが堂安だ。フランクフルトでも、ゴールやアシストは近いうちにまた必ず戻ってくる。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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