水戸が直面する新スタジアム問題 避けたい”負の遺産“…社長が語る理想「リスクが高いのも承知」

小島耕社長が新スタジアム建設の理想を語る【写真提供:水戸ホーリーホック】
小島耕社長が新スタジアム建設の理想を語る【写真提供:水戸ホーリーホック】

水戸の小島耕社長「新スタジアム建設はリスクが高いのも承知」

 2025年J2もラスト4節となったが、上位陣に位置するV・ファーレン長崎、ジェフユナイテッド千葉、大宮アルディージャ、サガン鳥栖はいずれもサッカー専用スタジアムを本拠地にしている。そのライバルと比較すると、水戸ホーリーホックの本拠地・ケーズデンキスタジアム水戸はさまざまな課題に直面している。(取材・文=元川悦子/全6回の6回目)

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 とりわけ長崎は、2024年10月に開業した収容2万人のピーススタジアムに本拠を置いており、臨場感あふれるスタンドに毎試合、満員近いファン・サポーターが集結。凄まじい熱気を作り上げている。それが高木琢也監督就任後の16試合無敗という快進撃の原動力になっているところはあるだろう。

 対する水戸のケーズデンキスタジアムの収容人員が約1万人で、J1スタジアム基準の1万5000人を満たしていない。屋根はメインスタンド側にしかなく、アクセス面も最寄りの水戸駅から約9キロということで、車による移動に頼らざるを得ない。となれば、当然、試合日は周辺道路が大渋滞になる。こうした問題点を解決しなければ、中長期的なJ1定着は実現しないのだ。

「現在はJリーグから『条件付きJ1ライセンス』が付与されていますが、昇格すると3年以内にスタジアム建設予定地と基本計画を提出し、さらにその5年後には供用開始が求められます。

 そのスタジアム計画をまとめるのはかなりの難題です。我々のホームタウンは水戸市や日立市など茨城県の15市町村となっています。ご存じの通り、地方は人口減が急激に進んでいます。

 そういう環境に200億円以上かけて新設のスタジアムを作るというのはリスクが高いのも承知しています。瞬間的に喜ばれたとしても、スタジアムというのは建設費だけでなく、維持管理費も長期的に捻出しなければいけなくなる。長期的に負の遺産になってしまうことだけは絶対に避けないといけないんです。

 その現実を踏まえながら、いろんな議論をするチャンスだと僕は捉えています。個人的には既存施設の改修を含め、さまざまな可能性を検討した方がいいと考えています。我々が中心となって議論をしっかりと取り仕切っていきたいですね」と小島耕社長は神妙な面持ちで言う。

 スタジアムを取り巻く現状は厳しいが、水戸は地域密着に熱心なクラブとしても知られている。練習拠点のアツマーレも廃校となった城里町立七会中学校を有効活用し、七会町民センターとしてリニューアルさせたところを水戸が一部利用させてもらっている形。行政施設とプロサッカークラブによる日本初の廃校活用の試みだ。

「2018年からアツマーレを練習拠点にさせてもらっているのですが、現場は落ち着いた環境でトレーニングできるようになりましたし、地域住民やサポーターとの交流も増え、地域とのつながりや絆がより一層、深くなったと実感します。

 同じ城里町で「GRASS ROOTS FARM」プロジェクトとして農業にも取り組んでいます。我々が地域の地権者から畑を借り、クラブスタッフが中心となってニンニク栽培からスタート。水戸の選手のポストカードと一緒に、収穫した野菜を定期的に消費者へ送るまでになりました。

 昨年には耕作放棄地で太陽光発電を手掛ける『GXプロジェクト』もスタート。発電した電力の全てを町の施設に売電しています。」とも小島社長は説明するが、少しでもホームタウンを盛り上げたいという思いは人一倍強い。彼自身が茨城県鉾田市出身ということも大きいが、クラブに関わる全ての人が地域と真摯に向き合いながら仕事をしているのは間違いないだろう。

「水戸の選手はレギュラー・控えに関係なく、ホームタウン活動に参加してもらっていますし、パートナー企業との合同研修なども同様です。

 僕らのような市民クラブは地域の支えなしには成り立たない。そのことを肝に銘じながらこれまでもやってきましたし、今後も成績に関係なく継続していく必要があると強く思っています」と小島社長はブレないスタンスを強調する。

 それは仮にJ1に上がり、トップリーグの一員として活動できるようになったとしても不変だろう。もちろん上記のようなスタジアム問題、人口減、少子化など避けられないか問題点は少なくないが、それを何とかしなければ明るい未来は開けてこない。まずは今季J2での現場の奮闘を活力にして、フロントもさらなるパワーを発揮しながら、難題を乗り切っていく構えだ。

「J1が現実になれば歴史的な出来事。ですが、仮に叶わなかったとしても常にJ1を狙える安定した力をつけたい。地方の市民クラブとして、これからも全てにおいて積極果敢に挑戦していきたいです」という小島社長のチャレンジ精神が会社、現場、サポーター、地域にしっかりと伝わり、結果的に最良の結果につながること。それを心から祈りたいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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