幻に終わった地元移籍「正解なんです」 元日本代表の強化本部長…今だからできる還元

今季J2で最小失点の守備で昇格を狙える位置につけている【写真:柳瀬心祐】
今季J2で最小失点の守備で昇格を狙える位置につけている【写真:柳瀬心祐】

徳島の強化本部長を務める黒部光昭氏の使命「このクラブをJ1に上げること」

 京都パープルサンガなどでストライカーとして活躍し、日本代表にも選出された経験を持つ黒部光昭氏は現在、地元の徳島ヴォルティスで強化本部長を務めている。今季は3試合を残して5位につけるなど、目標のJ1昇格へと好位置につける徳島。堅守が際立つチームをどのように編成したのだろうか。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大/全5回の4回目)

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 昨季は第7節終了後、最下位の状況で強化本部長に就任し、J2残留というミッションを達成した黒部氏。「今年に関しては、今いる選手たちをもちろん大事にしつつ、本気で上を目指せる可能性のある選手を獲得して、チームの全体的なレベルを完全に底上げしにいったというのが今年の補強でした」と明かす。

 特に話題となったのは、35試合で21失点というJ2で断トツの堅守。2番目に少ない首位の水戸ホーリーホックが30失点ということを考えると、いかに桁外れかがわかる。昨季7節を終えて最下位のチームを任されたのが、増田功作監督だ。黒部氏は「残留をしなければいけなかった」ことが1つの要因だと言う。

 昨季の監督交代3試合目のV・ファーレン長崎戦で1-6の大敗を喫し、「選手たちはもう本当に自信を無くしてしまった状況」に陥った徳島。黒部氏は増田監督と話し、「まずは勝ち点を積むところからというのをベースにしてほしい」と伝えたという。すると次節の藤枝MYFC戦で1-0の完封勝利。これが原点となった。

「監督自身も守備を構築するのは上手だと思っていたので、その強みを生かしたチームを作る方がいいなというのもありました。点を取りにいく戦術は、リスクも背負わないといけない。リスクも背負うよりも、堅実にいきながら前の個で点を取るほうが、チームにとってはバランスとして良かったと思います」

 昨季は2番目に失点の少なかったファジアーノ岡山が、5位からプレーオフを制した。岡山を例に挙げた黒部氏は、「そういう堅いチーム、勝ち点を1個でも積んでいけるチームを作るほうが、プレーオフには近づける可能性は高いのではないか」と分析。粘り強いチームを作り、J1昇格を狙う位置につけている。

 一方、長期的な目線では「このクラブをJ1に上げること。上がったら絶対に落ちないチームを作ること。もうこれしかないかな」と力強く語る。さらなる夢を描くこともできるが、「J1で優勝争いをするとかACLだとか、そういうのはそんなに簡単な話ではないと思います」と、あえて現実的な目標を設定している。

 というのも、徳島の人件費はJ2で5~8番目くらい。これまでは「育成型クラブという言葉を出して、若い選手を育てるというスタンスが強かった」と明かす黒部氏だが、「若手を育成するというコンセプトも大事ですが、僕の立場としては常にJ1昇格プレーオフ圏内を伺えるチームを作らないといけない」と話す。

 また、昇格争いにかかわるか、中位以下に甘んじるかで、選手の成長にも違いが出てくるという。「目標設定がリーグ戦のなかで無くなってしまうと、選手の経験は薄くなるんですよ。ヒリヒリ感、人生がかかっている経験を1試合でも多く積ませるべき。その経験が、結局その選手の価値になります」と語る。

 黒部氏は勝てるチームを作るため、24~28歳くらいの「今が一番旬の選手」を中心に編成を考える。若手の育成に重きを置きすぎて、チームが勝てないなら本末転倒。「自分がヴォルティスというチームでやらせてもらっている以上、そのバランスは少し変えなければいけないなと思っています」と使命感を持つ。

「日本人の若い選手というのは、チャレンジしたいと言われると応援したくなります。J2の選手で若い選手だったら、移籍金なんかちょっとでいいでしょうと言われて、出て行かれてしまう。そうしたらお金がない、少ないなかでそれと同等の選手を取ってくるとなると、編成としては難しくなってしまいます」

 様々な経験を地元の徳島に注ぎ込む黒部氏だが、実は選手として戻ってくるチャンスもあったと明かす。オファーを受けるかどうかという話になったこともあったが、「自分はジェフにいてJ1でした。ヴォルティスはちょうどJ2に上がって、3年連続最下位のときで。いや、これは戻れないな」となったと言う。

 逆に2009年オフにトライアウトを受けたときには、「戻れたらいいのにと思いましたが、取ってくれなかった」。これで選手として地元でプレーする夢は失われてしまったが、今だからこそ「取る側の気持ちもわかる」と言う。強化の目線から見て、「あのときに取れないと言ったのは正解なんですよ」と笑う。

「僕が28、9歳のときに、本気でヴォルティスが上を目指せる準備ができていたら、たぶん行っていたと思います。でも、そのときはJ2で3年連続最下位の状況で、お金もまだそんなには出せない状況。自分の選手としての価値と、縁とタイミングが選手として帰るということには合わなかったんだと思います」

 そんな紆余曲折を経て、やっと地元に帰ってきた黒部氏。「いろんな経験を積んだ上で、全ての経験を活かせる状況で僕は徳島に帰ってこられました。中途半端な状況よりも、冷静に判断できる自分もいます」としみじみと話す。目標とするJ1昇格、そしてその先にあるさらなるチャレンジの舞台は整っている。

(FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo)



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