降格危機で…頼まれた就任「1日だけ考えさせて」 元日本代表が地元で“決めた覚悟”

徳島の強化本部長を務める黒部光昭【(C) T.VORTIS】
徳島の強化本部長を務める黒部光昭【(C) T.VORTIS】

徳島の強化本部長を務める黒部光昭氏「俺しかいないなら、もうやるしかない」

 京都パープルサンガなどでストライカーとして活躍し、日本代表にも選出された経験を持つ黒部光昭氏は現在、徳島ヴォルティスで強化本部長を務めている。現役引退後、カターレ富山と名古屋グランパスで強化を担当。2024年には地元の徳島へと帰ってきたが、いきなり茨の道が待っていた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大/全5回の3回目)

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 徳島・阿南市出身で徳島商業から福岡大学を経て、Jリーグでは通算345試合93ゴールを記録。出場試合数、得点数ともに徳島出身選手で歴代トップと、まさに地元のスターだった。そんな黒部氏が2023年12月、ついに地元へと帰ってきたわけだが、当初の肩書きは強化本部長ではなくクラブアドバイザーだった。

「徳島に在籍経験の無いなかで、地元のクラブが自分のことを思ってくれているのはありがたかった。でも選手たちの環境とかいろんなものを正直わからなかった。大学に行ってからもう20年以上も徳島から離れた人間だったので、街のこともほぼほぼ浦島太郎みたいになっている状況でした」と就任当初の状況を振り返る。

 一方、名古屋時代に強化を担当するなかで、J2、J3のスカウティングを担っていたことから、「ヴォルティスに今何が必要で、何が足りないのかは見ていた部分もあった」と言う。そこで「別に強化にこだわる必要もないのではないか、自分が生まれ育った地元に帰ってこられるご縁をもらえるだけでも」とクラブアドバイザーに就任した。

 シーズンが始まってからは、「試合前日にスタジアムに行って会社の人たちとみんなで設営をしたり、選手の旗を付けたり、いろんなことを経験しようと思って、楽しく仕事をさせてもらっていました」と充実した日々を送っていた黒部氏。しかし、開幕からチームは低空飛行を続け、思いもよらない展開を迎える。

 第7節を終えて1勝1分5敗の最下位に沈んだ徳島は、3月31日に吉田達磨監督の解任を発表。そして同時に、岡田明彦強化本部長までもが責任を取ってクラブを離れた。そこで白羽の矢が立ったのが黒部氏だったが、「僕も即答はやっぱりできなかったです。僕はこのままではJ3に落ちてしまうと思っていたので」と苦笑いする。

「あの時点で、あの試合内容と選手たちがまとまりきれていない状況を見たときに、誰がやっても落ちてしまうなと思っていました。自分が近くで見てわかっていて、そのオファーを受けなければいけないと考えたときに『はい、やります』とは……。はっきり言ってとんでもなく大変な作業になると思いました」

 2年連続となるシーズン途中の監督交代、そして強化本部長の辞任となったなか、岸田一宏社長からの頼みに「1日だけ考えさせてください」と返答したという黒部氏。「時間をくださいと言いましたが、あくまで覚悟を決める時間をくださいというだけだったんです」と振り返る。

「僕に徳島に帰るチャンスをくれた社長が苦しい状況で、助けられるチャンスがあるのが俺しかいないんだったら、もうやるしかないでしょと。これでもしJ3に落ちていたら僕は今ここには多分いない。周りが『黒部さんのせいじゃない』と言ってもたぶん俺のせい。そういう状況になるのを覚悟で受けました」

 黒部氏の就任直後に、島川俊郎(現SC相模原)が突然の現役引退。MF西谷和希(現ツエーゲン金沢)が双方合意のもと契約解除になるなど、立て直しに追われた。「ようやく地元に帰ってきたのに、たった1、2か月でとんでもないデカい勝負をさせられたなと思いましたよ、心の中では」と当時の心境を明かす。

「増田功作監督には理想的な話というよりは、現実的に降格圏から抜け出すための作業に割り切ってもらった」という結果、徳島は驚異的な追い上げで16勝7分15敗の8位でフィニッシュすることに成功。「あの状況でなぜ8位まで持ってこれたのだろうと心の中で思うくらいよくやれた」とホッと胸をなでおろした。

 今だからこそ笑って話せるが、「最後の数試合でギリギリ届くか届かないかかなと思っていました。内容とかはまた全然別ですけど、結果だけ見るとよくやれたなと思います」と壮絶な1年を振り返った黒部氏。そして迎えた今シーズン、残留争いではなく、J1昇格を狙うためのチームを作っていくことになる。

(FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo)



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