観客数激減も「間違ってない」 スポンサー200社突破&7億円超え…J2首位クラブ変えた“信念”

水戸・小島耕社長が語る経営改革
2025年J2を席巻してきた水戸ホーリーホック。進境著しいクラブの2024年度年間売上高がJ2平均の20億円をはるかに下回る12億2400万円だったことは前に触れた。それでも、小島耕社長が就任した2020年度時点の売上高・7億6200万円からは2倍近く増えており、クラブとしての営業努力の成果が色濃く窺える。(取材・文=元川悦子/全6回の第3回目)
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「僕が水戸の経営に関わり始めた2019年は、ホームゲーム1試合当たりの平均観客数が6087人。クラブ史上最高でした。が、当時は無料招待券を多く配布していたので、平均客単価が860円にとどまっていたんです。
ご存知の通り、その翌年の2020年にコロナ禍に突入し、お客さんを呼べない状況に陥りました。僕としてはそのタイミングに無料招待券のことを抜本的に改革しなければいけないと考え、思い切って大幅に減らすことに踏み切ることにしました。
県内のいろんなところを回ると、『今までタダで行けた試合に行けなくなるのはどうなのか』といった反発もありましたし、『招待券配布を続けるべきだ』といった声もありました。でも、僕としては『そうしなければ健全経営はできない』という確固たる信念がありましたから、その方向性を推し進めました」
小島社長の経営判断とコロナ禍の観客制限によって、2020~2022年の水戸の1試合平均入場者数は2019人、2696人、3140人と大幅に減少。2023・2024年も3726人、4406人と、5000人に達しなかった。J1昇格争いをしている今季は10月26日時点で5518人と前年に比べて1000人以上の増加となっているが、1万人の大台を超えているクラブが8クラブもある中、水戸の数字は少ないと言わざるを得ないだろう。
「それでも今季は客単価が1500~1600円になっていて、2019年から比べると倍増しています。そうしないとクラブの収入は増えない。お金を稼いで現場に回すのが僕の仕事だと信じて、ここまで走ってきましたけど、その考え方は間違っていないと感じています」と小島社長は力を込めた。無料のお客さんがケーズデンキスタジアム水戸に数多く足を運んだとしても、クラブの収入につながらないのでは確かに意味がない。その収支構造を変えたという部分で小島社長の功績は大きいと言っていい。
スポンサー収入に関しても、小島体制の水戸は就任以前より、3倍増という数字を叩き出している。
「水戸の2024年のスポンサー収入は6億4100万円。今季は現場が頑張ってくれていることもあって、スポンサー企業も200社を突破。金額的にも7億円を超える見通しです。僕が関わった頃の総売上高が6億円台ですから、『ようやくここまで引き上げることができた』という感覚を持っています。
それもクラブスタッフの努力の賜物。僕の就任時はフロントの人員が13人しかいなかったんですが、今は29人に増え、やっとお金を稼げる体制を構築できたと思っています。人がいないとスポンサー企業に対して十分な対応もできませんし、これまでは至らない部分が多かった。ここへきてやっとひとつのJリーグクラブとしての基盤ができつつあるのかなと思います」と小島社長は前向きに言う。

社員も倍増「ワークライフバランスを重視」
水戸のような地方クラブの場合、人材確保はそう簡単にはいかないのが実情だという。
「今のフロントスタッフは茨城県出身者とそれ以外が半々くらいで、正社員や業務委託など雇用形態も多種多様です。それぞれに合った働き方を許容しつつ、新たな人材が入ってきたくなるような環境を作りながらやらないといけないと僕は考えています。
実際、東京に拠点を置いて、リモートで意思疎通を図りながら、週2回くらい水戸に通ってくるような人材もいます。そういう形でも仕事ができる時代になったのは確か。一方で、そういった多様化を進めていかないと、なかなかいい人材が集まらないという厳しさもあります。
コロナ前は人材募集をかけると、今よりも数多くの応募が来ていました。ただ、採用活動を進めていって、給料を提示した時点で『これでは難しいです』と断られるケースも数えきれないくらいありました。地方と東京は賃金格差もありますし、大都市圏のクラブと同じ賃金は払えないという実情もありましたから、『その条件で水戸に引っ越してきてください』とは僕らは言えなかった。
その後、徐々に給与水準も上がり、ある程度のいい人材を取れるレベルにはなりましたけど、逆に人手不足が進んで応募が減っています。こうした社会構造の変化も踏まえつつ、ワークライフバランスを重視して、働き方を選択してもらえるようにしたいと考えて、柔軟なスタイルを採っています」と小島社長は説明する。
水戸の本社はJR水戸駅前にあり、クラブハウスは約20キロ離れた城里町に位置しているが、フロントスタッフが毎日どちらかに足を運ばなければいけないような状況は非常に負担が大きい。水戸が実践している多種多様な働き方というのは、この先、クラブ力を引き上げるために必要なことかもしれない。
「ウチの場合、試合があろうがなかろうが、月曜日の会議は禁止です。社内の連絡ツールを稼働できるのも朝8時~20時までで、早朝深夜の労働も禁止しています。そうしないと何時まででも働く人間が出てきて、過労が常態化してしまう。そうならないように歯止めをかけるのも僕の仕事なんです」
こう語る小島社長も早朝7時からカフェに行って自分の事務作業を行い、8時から千本ノックのようなメールの処理を始めるのが常だという。
「午前中メチャクチャ働くので、午後が眠いっていうことも結構ありますね(笑)。夕方からスポンサー企業との会食があったりするので、その前の時間は隠れていることも多いですよ。社長がオフィスにずっといると社員も息苦しさを覚えるでしょうし、そのへんのメリハリはつけています」
実に気さくな社長のスタンスも今季の快進撃につながっているのかもしれない。全員が過度な負担を感じることなく、楽しく現場を盛り上げる環境が生まれ、稼げるクラブになりつつある水戸。その前向きな変化はひとつの見逃せないポイントだ。(第4回に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。






















