“拡大路線”のJリーグ…停滞は下部リーグ行きを意味 横浜FMの身売り騒動でどうなる

身売り騒動が起きた横浜FM【写真:徳原隆元】
身売り騒動が起きた横浜FM【写真:徳原隆元】

華やかで大きな世界に見えるが、日本に限らず世界中で経営に苦しんでいる

 日産自動車が横浜F・マリノスの株式一部売却を検討していることが明らかになった。日産は2025年4月から6月までの第一四半期の決算で、販売台数減、トランプ関税などの影響を受け、最終的な赤字が1158億円となった。2024年度の売上高が12兆円を越える大企業と言えども、苦境に立っていることは間違いない。(取材・文=森 雅史)

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 2024年度の横浜FMの売上高は73億円。これは浦和の102億円、川崎84億円、神戸81億円、広島80億円に次ぐ5番目の規模で、当期純利益は900万円。さらにアカデミーなどの関連法人の営業収益は10億円あるなど財務的な不安は少ないように思える。

 また、横浜FMのスポンサー収入は28億円で、これは浦和の42億円、町田・川崎の40億円、FC東京の30億円、柏・磐田・名古屋の28億円に続く8番目。売上高の38パーセントをスポンサーに頼ってはいるものの、極端に多いというわけではない。

 だが、この横浜FMの置かれている状況が、今のJリーグを考えるなかで重要なポイントとなってくる。というのも、近年Jクラブの規模が急激に拡大しているのだ。

 2005年度のJ1クラブは、営業収入の平均が31億円だった。そして広告収入(「スポンサー収入」という言葉は2018年度から使用されている)は公表している17チームの平均が14億円。なお、入場料収入は6億円、選手・チームスタッフ費の平均は公表している8クラブの平均が16億円になっていた。

 この傾向は2015年度まであまり変わらない。2015年のJ1クラブは営業収入の平均が33億円。そして広告収入は15億円だった。なお、入場料収入は7億円、選手・チームスタッフ費の平均は15億円とこちらもあまり変化がない。

 ところがこのあとはクラブの規模が急激に大きくなる。

 2016年度になると営業収入の平均は約36億円。2017年度は約40億円。2018年度になると約48億円になり、2019年度には約50億円まで膨らんでいる。4年間で営業収入が1.5倍になったのだ。

 選手・チームスタッフ費の平均は2015年度が15億円、2016年度は約16億円、2017年に19億円、2018年が23億円、2019年は25億円になっている。2018年から2023年まで神戸でプレーし、高年俸と言われたアンドレス・イニエスタが押し上げたと考えられるかもしれない。

 だが、それでは2024年度のJクラブはどうだったか。2024年、J1クラブの営業収入の平均は約58億円、選手・チームスタッフ費の平均は約21億円とあまり規模は変わっていない。競争がある世界で一度大きくなった選手・チームスタッフ費を削るのは難しい。

 この拡大路線に着いていけるか、というのはJクラブにとって大切な問題だ。降格があるJリーグでは停滞が下部リーグ行きを意味してしまう。

 この増額を入場料収入で補えるのが一番いいが、2024年度の入場料収入が浦和と広島の20億円に続く17億円を誇る横浜FMでも、総収入の23パーセントなのだ。となると、メインスポンサーとして支える企業の負担が増えるのは間違いない。

 日本を代表する企業の一つである日産だが、経営立て直しのために横浜国際総合競技場の命名権減額を申し出るなど引き締めを図っている現在、企業のイメージアップに貢献するサッカークラブであっても聖域なく手を打ちたいというところなのだろう。

 それにしても、横浜FMが残留争いも含めてこのような事態に追い込まれるとは何とも悲しいものがある。オリジナル10、降格の経験なし、リーグ戦優勝5回、リーグカップ優勝1回、天皇杯優勝2回(日産時代含まず)、アジアカップウイナーズカップ優勝1回、輩出した日本代表選手多数という数字だけではない。

 横浜FMへ取材に行くと、事前の案内、駐車場係の人、記者室での対応、試合後に選手を取材するときの段取りなど、すべてに細かい気配りがなされていて「一流」を感じることができる。そんな心の余裕があるクラブが株式売却されようとしているとは、何とも信じがたいことではある。

 しかし、これがスポーツ界を取り巻く現状かもしれない。とても華やかで大きな世界に見えるが、実は日本に限らず世界中で経営には苦しんでいる。Jリーグも今、停滞の道を歩くのか、あるいはここからもう1ランクアップして世界的なビッグクラブを作り出すのか、ちょうど分かれ目に来ていると言えるだろう。今回の株式の問題が横浜FMのさらなる発展につながってくれることを願ってやまない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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