「クラブ史上初」か「J1定着」か…命運を賭けた残り4戦、J1残留へ「横浜サバイバル」の行方

横浜FMと横浜FCが勝ち点2差で残留争いを繰り広げる
2025年J1リーグも残り4試合。鹿島アントラーズを筆頭とする上位による激しい優勝争いが繰り広げられる一方で、残留争いは20位のアルビレックス新潟がほぼ脱落。19位の湘南ベルマーレもかなり苦しい状況に。数字上、11位のFC東京あたりまで降格の可能性を残すが、実質的には17位の横浜F・マリノス(勝ち点34)と18位の横浜FC(同32)による“横浜サバイバル”の様相を呈している。
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かたやタイトル争いの常連から、よもやの“迷走”により残留戦線に立たされたマリノス。もう一方は、この数シーズンで昇格と降格を繰り返してきた横浜FCが、今度こそはJ1定着へ踏ん張りを見せている。マリノスが降格すればクラブ史上初となるが、親会社の経営難も伝えられる中で、厳しい状況が想定される。ただ、クラブのポテンシャルを考えても、ここを乗り切れば、来年に半期で行われる百年構想リーグで大きく巻き返す可能性もありそうだ。横浜FCにとっても非常に大きな残留となる。
マリノスはここまで34試合で、勝ち点も34。得点36、失点44となっているが、今シーズン3人目となった大島秀夫監督が就任してからは15試合で6勝2分7敗、勝点20とまずまずの立て直しを見せている。1試合あたりの勝ち点「1.33」は、残留争いの水準を超える数字だ。従来のポゼッションにこだわらず、ハイプレスとショートカウンター、時間帯や相手との関係によってはロングボールを繰り出す。ある種の華やかさを捨て去り、泥臭くも粘り強い戦いが勝点をもたらしていることは確かだ。
ただ、もともと技術の高い選手が多く、局面では高精度な崩しを見せるなど、「やればできる」感は健在だ。夏にはブラジル人トリオ(アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウス)との決別を決断したが、入れ替わりで加入した新戦力がことごとく勝利に貢献していることは見逃せない。特に、いわきFCから加入したFW谷村海那は11試合で5得点。ジャッジに嫌われるシーンもあったが、J2では前半戦だけで8得点を記録した気鋭のストライカーらしく、新天地でも着実に数字を伸ばしている。同じくJ2のジュビロ磐田から加わったジョルディ・クルークスも、左足の高速クロスとセットプレーで、攻撃に“拠り所”をもたらした。
守備面ではジェイソン・キニョーネスが完全にフィットし、欧州から帰ってきた角田涼太朗との新コンビが定着。守備的なポジションに怪我人が多発する厳しい台所事情で、この二人がディフェンスラインの中央に定着したことは大きい。キャプテン喜田拓也も怪我からの復帰当初はパフォーマンスが安定せず、一部で批判的な声も出たが、ここ数試合で本来のバランスワークと球際の強さを取り戻し、再び頼れる存在となっている。
前半戦は前任者2人のもとで戦い方が安定しなかったことに加えて、やはりACLエリートによる過密日程も、多少なりリーグ戦に影響したところはあるだろう。天皇杯と準々決勝から参戦したルヴァンカップでも早期敗退してしまったが、結果として残留争いに“全振り”できたことは怪我人や大島監督の起用法を考えても大きい。最終盤まで残留争いを強いられた経験は過去10年で2018年(アンジェ・ポステコグルー1年目)くらいしかないが、伝統あるクラブの命運を背負う危機感はライバルに負けないものだ。また、立場としてはチャレンジャーでありながら、上位に怯まないメンタリティはやはり、長らくタイトルを争ってきたチームのそれだ。
一方の横浜FCは、8勝8分18敗の勝ち点32で、得点23、失点39(得失点-16)。四方田修平前監督の時から得点力不足は大きく変わってはいないが、それでも的確な選手起用を得意とする三浦文丈監督の就任後、競り合いで勝ち切るための得点を奪えるようにはなっている。10試合で3勝4分3敗。1試合あたりの勝ち点「1.30」はマリノスの大島監督とほぼ同じ勝率だ。
5バックを用いる戦い方のベースは前体制とさほど変わらない。しかし、ただ堅実に守ってワンチャンスに賭けるのではなく、最終ラインの展開力や前線の強さを頼りに、ボールを前に運べた時はしっかり押し上げて、セカンドボールの回収からもフィニッシュを狙う回数を増やすことで、相手ボールになる度に、自陣まで引く守備を繰り返すことは少なくなった。
マリノス同様に、夏の補強も残留争いのアドバンテージになっている。新守護神のGKヤクブ・スウォビィクは加入後9試合で9失点。堅守の中心として安定感を見せ、チーム全体の落ち着きを取り戻した。攻撃面では34歳のアダイウトンが夏に加入。スタメンでも途中出場でも得点に絡み、数字以上に“前圧”で相手を脅かせる存在になっている。もう一人、大きな効果を生んでいるのが、大学生の細井響だ。
左足のキックに優れる福森晃斗を3バックの左ワイドで起用する代わりに、左ウイングバックに細井を起用することで、中央のンドカ・ボニフェイスとともに、福森の脇や背後をカバーするというのが三浦監督の構造的な狙いであるようだ。そうした役割もさることながら、Jリーグでもトップレベルと見られるロングスローが、1-0で勝利した湘南戦や土壇場で2-2に追いついた名古屋グランパス戦でも発揮された。
試合の状況に応じた三浦監督の選手交代も効果的なものが多く、マリノスなどに比べても限られた戦力ながら、上位とも渡り合えている要因だ。J1基準でクオリティの課題をあげたらキリはないが、ここからはカップ戦のトーナメントと変わらない勝負が続いていく中で、確かな強みになっていくはずだ。
大島監督、三浦監督ともに前体制より勝点を増やしているが、ここからの相手はマリノスがサンフレッチェ広島、京都サンガF.C.、セレッソ大阪、鹿島で、平均順位は4.75位。横浜FCも2位の柏レイソルに始まり、鹿島、京都、セレッソと続き、平均順位は4.00だ。マリノスはホームが2試合、横浜FCが3試合アウェーで、ややマリノスに有利ではあるが、ここから伸ばせる勝ち点は40弱か。仮に両者が40を超えてくるようなハイレベルな争いになれば当然、現在で勝ち点40の名古屋なども巻き込まれる可能性はある。その結果、両チームとも残留という結果になればそれも劇的だが、このサバイバルを勝ち抜くのはどちらの横浜か。目を離せない残り4節となる。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。





















