「13」の覚悟…強化部に直訴「自分に着けさせて」 戦線離脱に悔しさ「もっとやれる」

神戸の佐々木大樹「4試合しかないし、ここで下を向いていても仕方がない」
過去に鹿島アントラーズしか達成していないリーグ戦3連覇へ、ヴィッセル神戸が崖っぷちに立たされた。首位に立つ鹿島をホームのノエビアスタジアム神戸に迎えた10月17日のJ1第34節で痛恨のスコアレスドローに終わり、キックオフ前の勝ち点5差を詰められずに4位にとどまった。今シーズンから神戸のエースナンバー「13」を背負う26歳の佐々木大樹は、怪我を乗り越え、8試合ぶりに復帰した一戦で何を思ったのか。(取材・文=藤江直人)
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自分自身に腹が立った。心の準備はできていた。だからこそベンチ入りを果たし、緊急事態を受けてホームのノエビアスタジアム神戸のピッチにも立った。しかし、思うように試合に入れなかった。鹿島とスコアレスドローに終わった17日のJ1リーグ第34節後、ヴィッセル神戸の佐々木は自らを責めた。
「アクシデントはつきものなので常に準備はしていたんですけど、率直な感想を言えば、あまり(試合に)入れていなかったかなと思っています。試合勘がなかったのかと言われれば、実際にそうなるんですけど、そんなことは言っていられない試合だったので。勝てなかったのはすごく残念ではあります」
キックオフ前の時点で首位の鹿島に対して、神戸は勝ち点5ポイント差の4位。勝てば鹿島の背中を射程距離にとらえ、逆に負ければ鹿島に続く史上2チーム目のリーグ3連覇への可能性がほぼ絶たれる大一番。リザーブに名を連ねた佐々木が8月16日の横浜FC戦以来、62日ぶりにピッチに立ったのは前半35分だった。
プレー中にアクシデントが発生したからか。右ウイングで先発していたエリキが、おもむろに自陣のピッチ上に座り込んでしまう。右太ももの裏を押さえながら苦悶の表情を浮かべているブラジル人アタッカーの姿に、神戸の吉田孝行監督もプレー続行は不可能と判断。最初の交代カードを切り、佐々木を投入した。
試合後に振り返ったように、エリキのポジションにそのまま入った佐々木は、キックオフ直後から強度の高い攻防が展開されていた6ポイントマッチになかなか入っていけない。放ったシュートはわずか1本。前半アディショナルタイムに放ったヘディング弾は、右ゴールポストの外側を大きく外れてしまった。
時間の経過とともに、持ち味でもある身体を張るプレーや泥臭いプレーも見られた。佐々木自身も「徐々に戻ってきたかな、というのはあるんですけど……」と前向きな言葉を紡ぎながらも、鹿島との勝ち点差を詰められず、残り4試合で逆転優勝する可能性が大きく萎むスコアレスドローに再び表情を曇らせた。
「まだまだやらないといけない、と感じたというか、もっとやれると思いました。2か月間、怪我で迷惑をかけていたので、ゴールという結果で少しでもチームを楽にさせたい、という気持ちがあったので」
史上6チーム目のリーグ戦連覇を果たし、5シーズンぶり2度目の天皇杯制覇で花を添えた昨シーズンのオフ。2冠獲得に少なからず貢献した手応えを感じていた佐々木は、覚悟を決めて強化部に申し出た。
「着けられるのであれば、自分に着けさせてください」
4年間背負ってきた「22番」を「13番」に変える。黎明期の永島昭浩氏を皮切りに播戸竜二氏、大久保嘉人氏と歴代の「ミスター神戸」が背負い、小川慶治朗(現J2カターレ富山)が横浜FCへ移籍した2021シーズン以降は空き番だったエースナンバーを継承したい、という佐々木の申し出に反対する声はなかった。
神戸U-18からトップチームへ昇格して7シーズン目を終えたばかりの佐々木は、どのような考えのもとで直訴にいたったのか。あらためて「13番」に込める思いを聞いたのは夏場の戦いの渦中だった。
「自分自身、2連覇して自覚も芽生えてきたところなので、そのへんはしっかりと意識しています」
思いを聞いた段階で、佐々木は2月の開幕からリーグ戦で攻撃陣ではただ一人、全試合に出場。大迫勇也と武藤嘉紀の2枚看板が怪我で長期離脱していた神戸の前線を、文字通りのフル回転で支えていた。だからこそ、背番号に見合ったプレーができているのでは、と問われた直後に帰ってきた言葉は意外な響を伴っていた。
「どうなんでしょうか。自分としては『13番』に関してあまりプレッシャーを感じていなかったんですけど、歴代の『13番』の選手たちを見てみると、まったく物足りないと思っています。自分にできる最大限のプレーをチームに還元していくなかで、神戸の『13番』に恥じない選手になりたいとあらためて意識しています」
決意を新たにした直後。ノエビアスタジアム神戸に横浜FCを迎えた8月16日の第26節で、3トップの中央で先発していた佐々木が悪夢に見舞われる。開始早々にボールを奪い合った場面で足を痛めたからか。前半5分に井出遙也との交代を告げられた佐々木は、約2か月間もの戦線離脱を余儀なくされた。
佐々木の怪我に関して神戸は詳細を発表していない。しかし、リーグ戦だけで7試合もの欠場を要しただけに、決して軽いものではなかったと推察できるなかで必死のリハビリを積み、優勝争いへの生き残りをかけた鹿島との大一番に何とか間に合わせた。しかし、スクランブル発進した55分間でチームの力になれなかった。
自身が負傷退場した横浜FC戦で神戸は0-1で痛恨の黒星を喫し、その後もセレッソ大阪と柏レイソルと引き分け、埼玉スタジアムに乗り込んだ今月4日の浦和レッズ戦でも0-1で苦杯をなめている。大事な戦いが続いたなかで勝ち点3獲得に貢献できなかった不甲斐なさを押し殺すように、佐々木は鹿島戦後にこう語った。
「あと4試合しかないし、ここで下を向いていても仕方がない。ポジティブにやっていくだけです」
鹿島戦をもって今シーズンのプレータイムが1978分に到達。これまでのキャリアハイだった2023シーズンの1950分を更新したが、佐々木を喜ばせる材料にはならない。26日のアルビレックス新潟戦を皮切りにガンバ大阪、FC東京、そして京都サンガF.C.との最終節で「13番」にふさわしいプレーを演じて何がなんでも白星をもぎ取る。自力優勝の可能性すでに潰えていても人事を尽くし、天命を待つ展開だけを佐々木は見つめている。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。













