長谷川唯がこぼした本音「なでしこに物足りなさを感じる人多い」 W杯優勝のため…あえて口にした厳しさ

休養中も現地に連絡をして課題を共有 「まだスペインと互角に戦える実力がない」
2027年のブラジル女子W杯で、サッカー女子日本代表(なでしこジャパン)は2度目の優勝を目指している。昨年12月、初の外国人指揮官となるニルス・ニールセン監督が就任。「主導権を握るサッカー」を標榜し、新たなスタートを切ったチームで、キャプテンを託されたのがMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)だ。“新生なでしこ”の中心として期待される長谷川に「FOOTBALL ZONE」が独占インタビュー。第1回は外から見たなでしこジャパンの現在地について。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・砂坂美紀/全4回の1回目)
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遠く離れた異国の地で戦う仲間たちの姿を複雑な思いで見ていた。体調も回復し、新シーズンに向けて徐々に調整のペースを上げていた7月のある日、長谷川唯は率直な心中を吐露した。
「結構苦しんだ3試合だったので、自分もそこで力になりたかったです。『やっぱり行きたかった』という思いがすごく強く残りました」
パリ五輪で銀メダルを獲得したブラジルとの2試合、そしてW杯王者のスペインとの1試合。新たになでしこのキャプテンに就任したものの、世界トップクラスの相手との貴重な実戦の場に立つができなかった。
所属クラブでのシーズン最終戦でふくらはぎを痛めた影響でブラジル遠征を、そして種子骨の炎症などによる体調不良でスペイン遠征を回避。新生なでしこの精度をより高めるために、5月と6月に組まれた海外遠征は、どちらも身体を休めつつ、モニターを通してチェックしていた。
長谷川は2011年に14歳でU-16日本代表に選出されて以来、2014年のU-17女子W杯で世界一に輝くなど、各年代別代表の中心選手として躍動してきた。2017年になでしこジャパン入りしてからも、2度の五輪とW杯に出場。約15年にわたって日の丸をつけて活動してきた。外から代表戦を観る機会はあまりなく、客観的になでしこの試合を見ることも新鮮だった。
「外から改めて見ると違いますね。外から見るのと、中にいる選手の感覚も違いますし、あの中にいる選手がどう思っていたのかとかも、連絡を取って聞いたりもしていました。チームとしてどういうことをこれから改善していかないといけないのか、選手たちが何を思ったのかというところは聞けたので、次につなげたいですね」
5月31日、6月3日(いずれも日本時間)のブラジル戦は1-3、1-2で連敗。欧州選手権目前でコンディションを上げていたスペインには1-3で完敗した。長谷川がこの結果以上に気になったのが、チームとしての姿だった。
「今回の試合だけを見たら、なでしこジャパンに物足りなさを感じる人が多いのかなっていうのは正直思いました。結果もそうですけど、内容として見ている人がただただ応援したくなるようなところは最低限できなきゃいけないと思いました」
2027年のW杯で2度目の優勝を目指しているからこそ、厳しい言葉もこぼれた。
W杯開催国となるブラジルは女子に対してもファンが熱烈に後押ししていた。「熱量がすごいなと感じて、選手たちもモチベーションが上がっているなと感じました」と長谷川自身も感じつつ「正直言うと、自分たちにとってそこまでやりにくい相手じゃないんじゃないかなっていうのは対戦していても思うところ。チームっていうよりは個人のところがすごいチームなので、組織的なところがそこまでまだないと思っています」とも語る。
「自分たちの攻撃の部分で、相手の守備の弱点っていうところをもっと狙えていたら、相手にいい形でボールを持たせないことができたかなと思います。個人的に思ったのは、あのマンツーマンで来る相手に対して、もっと効率的な攻撃とかボールの持ち方っていうのはできたんじゃないかなと思います」と、頭の中で攻略のイメージも描いていた。
ニールセン体制になり、手にした収穫と浮き彫りになった課題
一方で、王者スペインに対しては危機感が募った。すでにオフに入っていた選手が複数いた日本とUEFA女子ユーロ(欧州女子選手権)を目前にギアを上げているスペインの間にはコンディションの差があったのは事実。ただ、それを勘案してみても、差を感じざるを得なかった。
「正直、まだスペインと互角に戦える実力が整っていないというのが、現状だと思いました。上手さだけではなくて、立ち位置や距離感はスペインの選手が上回っています。バルセロナで一緒にプレーしている選手が多い分、お互いを分かっているのは1つのアドバンテージとしてはあると思う。ただ、日本人にあってスペイン人にないものも絶対あると思う。そこをしっかり代表の中で共有できてやっていけたら、より良いゲームになるんじゃないかなとは思いました」
今年2月、なでしこジャパンはニールセン体制になってから初の国際親善大会「シービリーブスカップ」で初優勝を果たした。パリ五輪で金メダルを獲得したアメリカに対して2-1で13年ぶりに勝利するなど、3戦全勝でカップを掲げた。長谷川にとっても貴重な経験をした大会になった。
「優勝が経験できたのはすごく良かったです。私が代表に入ってから、アジアの大会を含めて1回、2回しか経験できていませんでしたから。アメリカに対してもきちんと戦えて、結果が出たのはすごく良かったと思います。押し込まれる時間帯もある中で、90分間の中で勝てたことは大きいです。ずっと守るというより『自分たちで前から取りに行く』という課題にもチャレンジしながらできました。勝っているときやゲーム終盤など状況に合わせた戦い方を試したなかで、良い結果になったことはチームにとって自信になりました」
確かな手応えを2月に掴み、自身が不在の5月、6月には改善すべき課題が浮き彫りになった。悲願の優勝を狙うW杯まではあと2年。長谷川は30歳でその時を迎える。
「今は体的にもしっかり動ける状態でもあるなかで、年々、経験を積めてきている感覚はあります。すごくいい状態で2年後を迎えられると感じていて。今までも自分の一番いい状態と思ってプレーをしてきましたが、そこに経験が加わって、チームが苦しいときの力になれたらいいと思っています。ブラジルW杯で優勝するために、自分に何ができるかをしっかり頭で考えてプレーできるようにしたいですね」(第2回に続く)
(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)




















