「今までない衝撃」日本人GKが遭遇した“怪物FW” 「人生初」ロジカル指導で辿り着いた新境地

バンクーバー・ホワイトキャップスで挑戦を続ける高丘陽平【写真:本人提供】
バンクーバー・ホワイトキャップスで挑戦を続ける高丘陽平【写真:本人提供】

バンクーバー・ホワイトキャップスGK高丘陽平、MLS挑戦3年目の現在地

 2026年北中米ワールドカップ(W杯)を見据え、MLS(メジャーリーグ・サッカー)で奮闘する日本人GKがいる。バンクーバー・ホワイトキャップスで3年目を迎えたGK高丘陽平は、Jリーグとは一線を画すパワーやスピードの洗礼を受けながら、自身の持ち味に磨きをかけてきた。Jリーグ時代から高評価を得ていた守護神は、MLS特有のスタイルやロジカルなGK指導によって、新たな引き出しを獲得。異国の地での進化と挑戦、その背景に迫る。(取材・文=元川悦子/全8回の3回目)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇   

 2023年2月に横浜F・マリノスからバンクーバー・ホワイトキャップスに移籍し、MLS挑戦3年目を迎えたGK高丘は、リーグの特性やプレースタイルへの理解を深めつつある。

「MLSとJリーグのサッカーを比べると、少しスタイルが違う。日本の特徴としてはボールの保持やテクニック、技術面が挙げられると思いますけど、MLSはどちらかというとゴールに直線的に来るチームが多いと感じます。それだけフィジカルやパワー、スピードを持っている選手がゴール前は特に多いということ。対戦した中では、ロサンゼルスFCのガボン代表FWデニス・ブアンガが強烈でしたね。シュートのパンチ力は今まで受けたことのない衝撃を受けましたから(笑)。僕自身、Jリーグでプレーしていた時から『パワー、スピード、フィジカルのある相手に対応する術を持ち合わせていく必要がある』と感じていたので、こっちに来てそういう選手やチームと対戦する機会が増え、GKとしての幅も広がったと思います」

 2026年北中米W杯を控え、MLSではレベルアップとリーグのブランディング力強化が加速。各クラブが代表クラスの補強に注力しており、個の能力も確実に上がっている。

「僕が加入した2023年初めは、ホワイトキャップスにそこまで代表選手はいなかったんですが、この前の6月の代表ウイークには8~9人が抜けましたね。MLSはサラリーキャップ制を導入していますが、年俸制限のない特別指定選手(Designated Player=デジグネイテッド・プレーヤー)を3人保有していいことになっていて、僕のチームには今、スコットランド代表MFライアン・ゴールドとパラグアイ代表DFアンドレス・クバスがいます。ゴールドは長期離脱中なんで試合に出られていませんけど、クバスの存在感は絶大です。インテル・マイアミのリオネル・メッシやジョルディ・アルバもそうですが、その3枠をどう使うかで勝敗が大きく分かれる。そういう傾向が強まっています」

チーム戦術に好感触「マリノス時代に積み上げたことが出しやすくなった」

 アメリカではかつてサッカーの地位は高くなかったが、W杯開催を契機に巨額の投資が進み、MLS全体の競争力も急上昇中だ。

 そんななか、中堅クラブのバンクーバーが西地区で上位争いを演じているのは、チームの一体感と指揮官の手腕によるものが大きい。今季からデンマーク人のイェスパー・サアンスン・ソーレンセン監督が就任し、ボールを大切にするスタイルへと舵を切った。高丘自身も日本で培った足元の技術やビルドアップ能力を発揮しやすい環境になっている様子だ。

「ホワイトキャップスはカナダにある事情もあって、MLSの中ではそんなに大きいクラブではないんです。インテル・マイアミ、吉田麻也選手や山根視来選手が所属するロサンゼルス・ギャラクシー、僕と一緒にマリノスでプレーしたチアゴ・マルチンスがいるニューヨークシティが資金規模的には大きく、僕らは中位という位置づけ。そういう中でも今季いい戦いができているのは、監督の手腕が大きいと思います」

 ソーレンセン監督の戦術的アプローチは、高丘にとっても大きな刺激となっている。

「監督は鈴木唯人選手(フライブルク)がプレーしていたブレンビーで昨年末まで指揮を執っていた方で、戦術的な落とし込みに優れています。ボールを大事にするサッカーに一丸となって取り組んでいて、今は上手くハマっている印象です。昨年まではイタリア人のバンニ・サルティーニ監督がマネジメントしていましたが、ポゼッション色が薄く縦に速いスタイル。僕としては今のほうがマリノス時代に積み上げたことが出しやすくなった。ただこの2年間、あまりつないでいなかったので、感覚的に忘れている部分もあるのかな(苦笑)。マリノスほど全員がつなぐことにこだわるわけではないし、技術的にも少し下がるので僕なりに調整は必要ですけど、つなぐスタイルのサッカーをやれること自体はすごく嬉しいです」

 Jリーグでベストイレブンに選出された2022年当時から、高丘はセービング、キャッチング、最終ラインの統率、ビルドアップなど、すべての面で高い平均値を誇っていた。だがMLSに来て以降は、さらにパワーやスピードへの対応力が磨かれ、完成度が一段と高まっている。

大きな影響を与えているコーチの存在「GKとしての幅も広がっている」

 なかでも大きな影響を与えているのが、現在指導を受けているユセフ・ダハGKコーチの存在だ。彼はGKの一挙手一投足を論理的に説明し、ロジカルなアプローチと数値に基づく指導法を行う。その指導には説得力もあり、高丘の成長に拍車をかけている。

「浮き球のシュートやゴロのシュートが来た時、それぞれどういう身体の使い方をするのか、どうポジショニングを取るべきなのかをこと細かく言ってくれますし、そこまでロジカルな指導を受けたのはサッカー人生で初めてですね。『こういう状況だと何メートルをカバーできる』とか、『一歩立ち位置が違うだけで無駄な動きが生まれる』といったことは本当に貴重な助言です。無駄な動きをすることによって目線がズレたり、構えがズレたりしてしまいますし、それをなくせばエラーも確実に減る。最初は難しさを感じましたけど、ゴール前での仕事がより正確になりますし、GKとしての幅も広がっていると実感しています」

 もしこのまま西地区を制し、MLSカップで頂点に立てば、日本とアメリカという異なるリーグでタイトルを手にすることになる。キャリアにまた1つ勲章を加え、自らの価値をさらに押し上げていければ、まさに理想的。高丘の2025年後半戦は、非常に注目すべきものになりそうだ。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



page 1/1

元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング